「おいイシェ、今日はいい感じの場所を見つけたぞ！」ラーンが興奮気味に叫びながら、朽ちかけた石碑の前に立っていた。イシェは眉間にしわを寄せながら、石碑に刻まれた古びた文字を確かめていた。「また見つけたか… ラーン、あの遺跡は危険だって何度も言ってるだろう。ヴォルダン軍の監視が厳重だって噂も聞いたぞ」
ラーンの肩を軽く叩きながら、イシェは冷静に続けた。「それに、この石碑から感じる魔力… 何か邪悪なものを感じるんだ。無理に掘り進めたら、大怪我をするかもしれない。ましてや…」 イシェは言葉を濁したが、ラーンが夢中になっているのは「継嗣」の伝説を知っているからだ。
「継嗣」とは、かつてこの地に存在したという古代文明の王位継承者であり、その遺物には莫大な富と力を秘めているという噂だ。ラーンはそれを手に入れれば、自分たちの貧しい生活から抜け出せると信じて疑わなかった。しかし、イシェはそんな楽観的な考え方に懐疑的だった。
そこに、テルヘルが鋭い視線で二人を見下ろしながら近づいてきた。「どうだ、二人は準備はいいか？ 今日の遺跡は収穫がありそうだぞ」彼女は冷酷な笑みを浮かべながら言った。「あの石碑には、強力な魔力が宿っている。それを利用すれば、ヴォルダンに復讐するための鍵となるかもしれない…」
ラーンの目は輝き、イシェはため息をついた。テルヘルが何を企んでいるのか、イシェはよく分かっていた。彼女はヴォルダンへの復讐心から、どんな手段もいとわないだろう。そして、ラーンの「継嗣」への執念を利用して、自分たちの命を危険にさらすつもりなのだと。
イシェは深くため息をついた。ラーンが夢中になる「継嗣」の伝説は、彼らを破滅へと導く可能性があることを、彼女は肌で感じていたのだ。