ビレーの朝焼けは、いつもより濃く染まっていた。ラーンが目を覚ますと、イシェが珍しい早起きで準備をしていた。「何かあったのかい？」とラーンの問いかけに、イシェは眉をひそめた。「テルヘルから連絡があった。今日は遺跡の探索中止だ。代わりに、街の西にある廃墟に行くと。」廃墟？ラーンは首を傾げた。いつも行く遺跡とは違う場所だ。イシェは「テルヘルが何か掴んだらしい」と呟くだけだった。廃墟は、かつてビレーの一部だったが、何らかの災害で壊れ、今は人々が避ける場所になっていた。継ぎ接ぎだらけの建物群は、まるで巨大な骨組みのように空に向かって伸びていた。
テルヘルは廃墟の中庭に立っていた。彼女の顔色はおだやかだが、瞳には冷めた光が宿っている。「ここには、ヴォルダンが隠した倉庫があるかもしれない」と彼女は言った。「情報源は怪しいが、確信に近い。ヴォルダンがビレーに持ち込んだ遺物を、ここに保管していた可能性が高い。」ラーンの心臓が高鳴った。ヴォルダン絡みなら大穴の可能性もあるのかもしれない。イシェは冷静に問いかけた。「何を探しているんですか？」テルヘルはゆっくりと答えた。「ヴォルダンを滅ぼすための鍵だ。」
廃墟の奥深くには、崩れ落ちた階段があった。テルヘルが先頭を切り、慎重に降りていく。ラーンは後方を固め、イシェは周囲を警戒した。階段の下には、暗い地下室が広がっていた。床には、埃をかぶった箱が無数に積み重ねられていた。テルヘルは、まるで宝物を見つけたように目を輝かせた。「ここだ。」彼女は一つの箱を開ける。中から出てきたのは、錆びついた金属の板だった。
イシェが板を手に取ると、その表面に刻まれた奇妙な文字列に驚いた。「これは…？」ラーンも覗き込んだ。「まるで継ぎ接ぎのように、異なる文字が組み合わさっている…」テルヘルは目を細めた。「これはヴォルダンが使用する暗号だ。この暗号を解読できれば、彼の弱点がわかるかもしれない。」ラーンの胸に、高揚感と不安が入り混じる感情が渦巻いた。廃墟の影の中に、運命の歯車がゆっくりと動き始めていた。