「よし、今日はあの崩れかけた塔だな！」ラーンの声はいつもより高かった。イシェは眉間に皺を寄せながら、地図を広げた。「また、そんな危険な場所へ？あの塔は崩落寸前だって聞いたぞ。ましてやヴォルダン軍が以前から目を付けているらしいし」
「大丈夫大丈夫、イシェ。俺が先頭行くから、心配するな！」ラーンは豪快に笑った。しかし、イシェの視線はラーンの背中にあった。彼の背中は、かつて一緒に過ごした幼馴染との思い出で埋め尽くされていたはずだ。あの日、ラーンは「俺たちには未来がある」と誓った。だが、その誓いは、いつしか崩れ落ちる塔のように危うくなっていたように思えた。
「よし、行こう！テルヘルさん、準備は？」ラーンの声が響き渡る。テルヘルは冷静な表情で頷いた。彼女の目は、いつもどこか遠くを見つめているようだった。イシェは彼女の過去を知らない。だが、その瞳の奥底には深い悲しみと、誰かを失った痛みが宿っていた。
「待てよ、ラーン。あの塔に近づくとヴォルダン軍に見つかる可能性が高いぞ。」テルヘルが警告した。「危険すぎる。別の遺跡を探すべきだ」ラーンの顔色が少し曇り、イシェは彼の肩を軽く叩いた。「テルヘルさんの言う通りだ。今回は諦めようよ」
ラーンは渋々頷き、地図を広げた。しかし、彼の視線は崩れかけた塔に向かい、何かを諦めるように見つめていた。イシェは胸が締め付けられる思いで、ラーンの背中に手を置こうとしたその時、遠くから馬の嘶く音が聞こえてきた。「来たぞ！ヴォルダン軍だ！」テルヘルは剣を抜いた。「逃げろ！」
イシェはラーンを引っ張り、「走れ！」と叫んだ。しかし、ラーンは動かなかった。彼の瞳には、絶望と決意が入り混じっていた。「俺たちは…もう逃げられない…」
イシェはラーンの言葉の意味を理解した時、すでに遅かった。ヴォルダン軍は彼らを包囲していた。イシェは絶望に打ちひしがれながらも、ラーンの背中に抱きつくように立ち尽くした。二人の間に、かつてあった友情の温もりを感じながら…。