ラーンの大雑把な指示に従い、イシェは石畳の路地裏を慎重に進む。日差しが遮られる狭い空間はひんやりと冷たかった。いつもならイシェはこのような場所を嫌うのだが、今日はなぜか落ち着きがある。
「本当にここに遺跡があるのか？」
ラーンの背後からイシェの声が響いた。彼は振り返り、自信満々に笑った。
「ああ、絶対にあるさ！この地図は間違いない。ほら、あの壁のひび割れを見ろ」
ラーンが指差す方向には、確かにひび割れた壁があった。イシェはその場所を注意深く観察する。確かに不自然な模様があり、もしかしたら何かの仕掛けかもしれない。しかし、イシェは何かが引っかかる感覚を覚えた。
「でも、地図はテルヘルがくれたものじゃないか？ あの女の言うことは信用できないだろう」
イシェは言葉を続けた。ラーンは一瞬考え込んだ後、大きく頷いた。
「ああ、確かにな。あの女は怪しいよな。でも、遺跡にたどり着いたら、俺たちは彼女を裏切って大金持ちになれるんだ！」
ラーンの目は輝いていた。イシェはため息をつきながら、その言葉に少しだけ心を動かされた。
「わかった。でも、何かおかしいと思ったらすぐに言うぞ」
イシェはそう言って、ラーンの後ろを歩き始めた。二人はひび割れた壁の前に立ち止まり、ラーンが慎重に壁を押し始めた。
すると壁がゆっくりと動き出し、奥には暗い通路が現れた。冷たい空気が流れ込んできた。イシェは背筋が寒くなるのを感じた。
「よし！遺跡だ！」
ラーンは興奮した声で叫んだ。イシェは彼をじっと見つめた。ラーンの目は輝いており、まるで夢を叶えるかのような表情をしていた。しかし、イシェはどこか不安を感じていた。
「絶対大丈夫だろうか？」
イシェは呟いた。その言葉は風に消されていくように、すぐに聞こえなくなった。