ラーンの粗雑な斧の振り下ろしが、埃を巻き上げるだけだった。イシェは眉間にしわを寄せ、「あの石壁には何か刻まれてるだろう?もっと丁寧に探すべきだ」と呟いた。ラーンは苦笑しながら「そうだな、イシェ。だが、こんな薄暗い遺跡で細かい字を読むのは難しいだろ?」と答えた。
テルヘルが二人のやり取りを冷酷な目で見ていた。「無駄な時間だ。あの壁には何もない。私はこの遺跡の地図を研究した。宝は別の場所に隠されている」と彼女は言い放った。ラーンの視線はテルヘルの鋭い瞳に釘付けになった。彼女の声には揺るぎない自信があった。
「よし、テルヘルに従おう。お前が言うなら、きっと何かあるはずだ」ラーンはそう言って、イシェの手を引っ張った。「さあ、進んでみよう!」
彼らはテルヘルの指示に従い、遺跡の奥深くへと進んだ。そこはまるで迷宮のようであり、複雑な通路が幾重にも重なり合っていた。時折、壁に刻まれた古代文字や奇妙なシンボルが現れるたびに、イシェはメモをとり、テルヘルは真剣な表情でそれらを分析していた。
ついに彼らは、広くて空洞の部屋へとたどり着いた。中央には巨大な石棺が鎮座し、その周りを幾つもの石柱が取り囲んでいた。石棺の上には、複雑に絡み合った模様が刻まれており、まるで生き物のように蠢いているように見えた。
「これは...」イシェは言葉を失った。ラーンは興奮気味に「ついに大穴か!?」と叫んだ。テルヘルは静かに石棺に近づき、その表面を触れた。「ここには強力なエネルギーが...何かが封印されているようだ」と彼女は言った。そして、ゆっくりと石棺の蓋を開け始めた。
その時、部屋全体が激しく震え始めた。壁から崩れ落ちる石が、まるで生きているかのように動き出した。石棺からは黒い煙が立ち上り、空気を歪ませた。ラーンは恐怖で言葉を失い、イシェはテルヘルに「何だこれは!?」と叫んだ。
テルヘルは石棺に向かって手を伸ばし、「私は...この力を解放する」と呟いた。彼女の瞳には狂気のような光が宿っていた。
その時、石棺の蓋が完全に開けられ、そこから放たれた黒い光が三人の前に広がった。それはまるで、何千年もの間閉じ込められていた何かが、今まさに世界へと戻ってくる予兆だった。
ラーンの心は氷のように冷えた。彼はイシェとテルヘルの顔を見つめた。彼らの表情には恐怖と期待が入り混じっていた。そして、彼は自分が巻き込まれたこの狂気に満ちた状況から逃れることなど、到底できないことを悟った。