「よし、今日はあの崩れかけた塔の奥へ入ってみるか?」ラーンの声はいつもより張り切り気味だった。イシェは眉をひそめた。「またそんな危険な場所? 以前も言っただろう、あの塔は崩落寸前だぞ。ましてや、その奥には何があるのかもわからないのに…」
「大丈夫、大丈夫! 遺跡探索の醍醐味ってのは、未知なるものに触れるワクワク感だろ?」ラーンはイシェを説得しようと、得意げに笑った。「それに、テルヘルが報酬を上げてくれたんだぞ。あの塔に何か価値のあるものがあるって確信してるみたいだ」
イシェはため息をついた。「いつも通り、大穴への夢と高額な報酬に目が眩んでいるのか…」 しかし、ラーンの熱意に押されるように、結局は彼に従うことにした。テルヘルが用意した地図を頼りに、3人は崩れかけた塔へと足を踏み入れた。
塔の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。朽ちた石畳の上には、何とも言えない不気味な静寂が広がっている。ラーンは興奮気味に周囲を見回し、イシェは慎重に足元を確認しながら進んでいく。テルヘルは背後から二人を鋭い視線で監視していた。
塔の奥深くにある部屋では、何かの儀式が行われたような跡があった。壁には奇妙なシンボルが刻まれており、中央には祭壇のような石台が残されていた。イシェは石台の表面に目を凝らした。「何か書かれている…」。彼女は石台に刻まれた文字を指でなぞった。「これは…古代の経済システムに関する記述だ」
「経済システム?」ラーンの顔に一瞬の戸惑いが浮かんだ。「遺跡探索でそんなものが出てくるなんて…」テルヘルは興味深そうにイシェの言葉を聞いた。「詳しく教えてくれ。その記述には、どのようなことが書かれているのか?」
イシェは読み解いた内容を説明した。「この記述によると、かつてこの地域では独自の通貨制度が存在していたようだ。そして、その通貨は、遺跡に眠る貴重な資源と密接な関係があったらしい…」
ラーンの表情が少し曇った。「つまり、大穴とは関係ないってことか…」イシェは頷いた。「もしかしたら、この遺跡には経済的な価値よりも歴史的な価値の方が大きいのかもしれない」
テルヘルは深く考え込んだ後、鋭い視線をラーンに向けた。「それでも、この遺跡は我々の目的達成に役立つ可能性がある。調査を続ける価値はある」
ラーンの肩が落っこちたように見えたが、彼はすぐに立ち直り、笑顔を見せた。「よし、わかった! 経済的な価値がないなら、歴史的な価値を探せばいいんだろ? さあ、イシェ、テルヘル、遺跡の奥へ進もう!」
三人は再び塔の奥へと足を踏み入れた。彼らの前に広がるのは、未知なる世界だった。