「よし、今回はあの崩れた塔だな！」ラーンの声がビレーの朝の静けさに響いた。イシェはいつものように眉間にしわを寄せながら、「またあそこ？あの塔は危険だぞ、ラーン。遺跡探索者二人が謎の死を遂げた場所だって聞いた」と忠告した。
ラーンはニヤリと笑った。「心配するな、イシェ。俺が守るから。それに、テルヘルさんがいい報酬をくれるって言うんだぞ。あの塔には何かあるはずだ。きっと大穴だ！」
イシェはため息をついた。ラーンの楽観的な態度にいつも振り回される。だが、彼には確かに惹かれるものがあった。彼の熱意と仲間への忠誠心は本物だった。テルヘルもラーンを信頼しているようだ。なぜなら、彼女はいつも危険な遺跡探索の依頼をラーンとイシェに託すからだ。
テルヘルはヴォルダンからの復讐のために遺跡を探していた。その目的はラーンやイシェには分からなかったが、彼女が語る言葉からは、深い憎悪と決意を感じ取ることができた。三人は奇妙な組み合わせだったかもしれない。しかし、共通の目標に向かって行動することで、不思議な絆で結ばれていた。
崩れた塔に足を踏み入れた瞬間、不気味な空気が彼らを包んだ。埃が舞う中を進んでいくと、壁には不可解な文字が刻まれていた。イシェは慎重にその文字を記録した。彼女は知識欲旺盛であり、遺跡から得られる情報こそが真実を知るための鍵だと信じていた。
突然、床が崩れ、ラーンが下に落ちていった。「ラーン！」イシェの声が塔内に響き渡った。テルヘルは冷静さを保ち、「落ち着いて、イシェ。俺たちが彼を助けに行く」と告げた。
三人は協力し合い、危険な罠を乗り越えながらラーンの元へと進んだ。そして、彼は深い穴の底で無傷だった。安堵のため息が上がった。
「よかった…。」イシェはラーンに駆け寄ると、彼の腕をぎゅっと抱きしめた。ラーンの顔には安堵と感謝の気持ちが溢れていた。
塔から脱出した後、三人は疲れた体に鞭を打って歩き続けた。日が暮れる頃、ビレーの街並みが見えてきた。「今日はここでキャンプしよう」とラーンが言った。イシェは頷きながら、火を起こし始めた。テルヘルは静かに星空を見上げていた。
「あの塔には何も無かった…」ラーンの声が寂しそうに響いた。イシェは彼を慰めようとしたが、言葉が見つからなかった。テルヘルは立ち上がり、三人に言った。「何も無かったわけではない」と。
「あの塔で僕たちは絆を深めたんだ。それは大きな財宝以上の価値がある」