「よし、今日はあの廃墟の奥にある部屋だ。地図によると、そこには未踏の領域への入り口があるらしいぞ」
ラーンの興奮した声は、薄暗い遺跡の中にも響き渡る。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の背後に続く。
「またそんな曖昧な情報に飛びつくのか？ ラーン。あの地図はただの噂話だって何度も言っただろう」
「でも、もし本当なら大穴だぞ！ イシェ、お前も夢を見るんだ！」
ラーンの熱意に押されるように、イシェはため息をつきながら奥へと進む。テルヘルは二人を少し離れた場所で、静かに周囲を観察していた。彼女の鋭い視線は、遺跡の壁に刻まれた奇妙な文字、崩れかけた柱の影に隠された空間、そして何よりも、ラーンとイシェの間にはばかる微妙な距離に注がれていた。
「この遺跡には何かがある。それが何なのかはわからないが…。」
テルヘルは呟くように言った。彼女の心には、ヴォルダンとの戦いの終局を思い描く影があった。この遺跡、そしてラーンとイシェが持つ力。全ては、彼女にとって復讐を果たすための鍵となるはずだった。
日が暮れ始めると、彼らはついに地図に記された部屋にたどり着いた。しかし、そこには何もなかった。
「やっぱり…」
イシェの言葉が虚ろに響く。ラーンは肩を落とした。だが、その時、テルヘルが壁の一点を指さした。
「ここを見て」
彼女は小さなボタンのような突起を指差す。ラーンの力強い一撃で、それは沈み込み、壁一面に刻まれた模様が光り始めた。
「これは…！」
イシェの声が震える。壁の模様は複雑な幾何学模様を描き、まるで巨大な装置の一部のように見えた。そして、その中心には、今まで見過ごされていた小さな穴が開いていた。そこから、かすかな光が漏れている。
「これが…未踏の領域への入り口か？」
ラーンの興奮を抑えきれない声に、イシェは静かに頷いた。テルヘルの瞳は鋭く光っていた。
「ついに、終局へと近づいてきた…」
彼女は呟いた。遺跡の奥深くで、新たな世界への扉が開かれる時、彼女たちの運命も大きく動き出すのだった。