ビレーの朝はいつも早かった。薄暗い空の下、ラーンはイシェを待っていた。いつものようにイシェは遅刻していた。「また寝坊か?」ラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。「今日はテルヘルが急いでいるって聞いたよ」イシェは眠そうな目をこすりながら言った。
テルヘルはいつも通りの黒いマントを纏い、鋭い視線で二人を見下ろしていた。「今日は特殊な遺跡だ。ヴォルダンとの国境に近い場所にある。危険度は高いが、報酬もそれなりだ」彼女の言葉にラーンは興奮した様子を見せたが、イシェは眉間に皺を寄せた。「ヴォルダンとの国境って…何かあったの?」
テルヘルは答えずに遺跡の地図を広げた。そこには複雑な図形と記号が書き込まれていた。「これは古代の紡ぎ師たちが遺した記録だ。彼らの技術は失われたはずだが、もしかしたらこの遺跡に何か残されているかもしれない」
遺跡への道は険しく、獣の足跡や枯れ草が生い茂る荒れ果てた土地だった。ラーンは剣を構え、イシェは慎重に周囲を警戒しながら歩いた。テルヘルは地図を頼りに道を切り開いていった。
遺跡は深い谷の中に隠されていた。崩れかけた石造りの門が朽ち果てた姿を見せている。「ここだ」テルヘルは静かに言った。内部は薄暗く、埃っぽい空気が流れ込んできた。壁には不思議な模様が刻まれており、まるで紡ぎ糸のように複雑に絡み合っていた。
ラーンは好奇心で胸がいっぱいになった。「一体どんなものが見つかるんだろうな?」イシェは緊張した表情で周囲を警戒した。「何か変だ…ここは以前とは違う」
その時、地面が震え始めた。壁の模様が光り始め、空中に不気味な音が響き渡った。「これは…」テルヘルは目を丸くした。「紡ぎの力…!」
遺跡の奥深くから、巨大な影がゆっくりと現れた。それは古代の紡ぎ師たちが生み出したもの、失われた技術を体現する存在だった。ラーンの顔色が変わった。「やっべ!逃げろ!」
イシェは冷静に状況を判断した。「逃げるだけでは間に合わない。何かするしかない」テルヘルは剣を抜いて、影に向かって立ち向かった。「ヴォルダンに全てを奪われたあの日から、私はこの日が来るのを待っていた!」
ラーンとイシェもまた、テルヘルの後ろに立ち、影との戦いに挑んだ。紡ぎの力は遺跡全体を包み込み、三人はその渦の中に飲み込まれていく。彼らの運命は、古代の紡ぎ師たちの遺した謎とともに、新たな物語へと紡がれていくことになった。