「よし、今回はあの崩れた塔だ」ラーンが目を輝かせた。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。「またか。あの塔は調査済みじゃないか? 何回も言ってるだろう、危険すぎるぞ」。ラーンの無謀さにイシェはいつも頭を抱えていた。「大丈夫だ、今回は違う!あの奥底に何かがあるって気がするんだ!」ラーンの熱意にイシェの心は揺らいだ。「 besides, テルヘルさんが報酬を上げてくれただろ? 大穴が見つかったら、ビレーから出てもっと広い世界を見れるかもな」 イシェはため息をつきながら地図をしまった。「わかった、行くわ。でも、約束してよ。今回は本当に慎重にね」。ラーンの笑顔が眩しかった。
崩れかけた石の階段を慎重に登る三人の影。埃っぽい空気を吸い込みながら、イシェは周囲を警戒した。ラーンは先頭を走り、テルヘルは彼を少し遅れて追いかけるように歩いていた。静寂の中、かすかな音が聞こえてきた。「何だあの音?」ラーンの耳がぴくっと動いた。イシェも緊張した表情で耳を澄ました。遠くから、何かが近づいてくる音がした。
「もしかして…」テルヘルが言葉を遮るように手を上げた。三人は背を揃え、剣を構えた。影が階段の上から降りてきた。それは巨大な虫のような生物だった。硬い甲羅と鋭い牙を持つ、見るからに恐ろしい姿だ。ラーンは剣を振りかぶった。「行くぞ!」彼の叫び声と共に三人は戦いの構えを取った。
しかし、その瞬間、崩れ落ちた天井から石が雨のように降り注いだ。イシェは咄嗟にラーンを庇い、吹き飛んだ石が彼女の肩に深く突き刺さった。激しい痛みに苦しみながらも、イシェは意識を保った。「ラーン…」彼女はかすれた声で言った。「逃げろ…」。 ラーンの顔色が変わった。彼はイシェの言葉を理解した。テルヘルが敵を攻撃し、ラーンはイシェを抱き上げ、崩れ落ちる塔から逃げるように走り出した。
激しい痛みの中、イシェはラーンの背中に抱えられて走っていることに気づいた。彼の熱い体温が彼女の傷口に伝わるのが感じた。「大丈夫…大丈夫…」ラーンの声が震えていた。イシェは彼の言葉に安心した。そして、同時に、自分の命を賭して守ろうとする彼への強い想いが胸の中に芽生えた。
塔から逃げてきた三人は、近くの洞窟に隠れ、イシェの傷を治療した。イシェは意識が朦朧とする中、ラーンの顔が見えた。「お前は…本当に…」イシェは言葉を失った。ラーンはイシェの手を握りしめ、「お前を守ることが俺の使命だ」と静かに言った。テルヘルは沈黙し、二人の様子をじっと見つめていた。彼女の心には複雑な感情が渦巻いていた。