「おい、イシェ、今日はいい感じの場所を見つけたんだけどな!」ラーンの声がビレーの朝日に照らされた街路に響き渡る。イシェはいつものようにため息をつきながら、背後からラーンについていく。彼にはいつも、どこかで聞いたようなワクワク感と無謀さが漂っていた。
「また遺跡?ラーン、あの日約束したでしょう?」イシェの言葉は冷たい風のようにラーンの興奮を少しだけ冷ます。
「ああ、もちろん!でもね、今日は違うんだ!」ラーンは目を輝かせ、イシェの言葉を遮った。「今回はテルヘルが報酬を倍にしてくれたんだぞ!あの遺跡にはきっと何かがあるって彼女は言ってたんだ」
イシェは眉間に皺を寄せた。「倍か…でも、なぜテルヘルがそんな大金を出すのか。いつもより怪しい気がするんだけど…」
「そんなこと気にすんな!」ラーンはイシェの手を掴んで引っ張った。「さあ、行こう!大穴が見つかるかもしれないぞ!」
遺跡の入り口に差し掛かった時、イシェはラーンの背中に何か冷たいものを感じた。それはまるで、影が彼を包み込もうとしているようだった。
遺跡の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンは剣を抜き、先頭に立って進む。イシェはいつも通り、彼の後ろを少し離れて慎重に足取りを進めた。テルヘルは二人が遺跡の奥深くまで入った後、少し遅れて姿を現した。
「よし、ここだ」テルヘルが石畳の上に手を当て、何かを呟いた。すると、壁の一部分がゆっくりと沈み込み、奥に続く通路が現れた。
「何だこれは…」イシェは驚いて声を上げた。ラーンも剣を構え、警戒しながら通路を見つめた。
「ここには古代の技術が残されているらしい」テルヘルは冷たい声で言った。「そして、その中に我々が求めるものがある」
通路を進んでいくと、巨大な石の扉が現れた。扉には複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように光を放っていた。
「これは…」イシェは言葉を失った。
テルヘルは小さく笑みを浮かべ、扉に触れると、その表面に刻まれた紋章が輝き始めた。扉がゆっくりと開き、その先に広がるのは、広大な地下空間だった。そこには、金や宝石で埋め尽くされた宝の山が広がっていた。
「ついに…見つけた…」ラーンの目は驚きと喜びでいっぱいになった。イシェも思わず息を呑んだ。だが、テルヘルの表情はどこか違っていた。彼女の目は、宝の山ではなく、その奥にある何かを見つめていた。
「これで全て手に入る…」テルヘルは呟いた。「そして、この世界を全て掌握する時が来た…」
ラーンの背中に冷たい影が伸びていく。それは、彼の夢を奪い、彼自身をも飲み込んでいく暗黒の影だった。