ラーンの粗雑な斧の音が、石室の静寂を打ち破った。埃が舞い上がり、イシェは咳き込みながら顔をしかめた。
「おい、ラーン。もう少し丁寧に扱えよ。あの碑文には何か刻まれてるかもしれない」
「ああ、分かった分かった。イシェったらいつも細かいな」
ラーンは不機嫌そうに斧を置くと、碑文に目をやった。しかし、複雑な紋様は彼にはさっぱり意味不明だった。
「何だこれ?呪文みたいだな」
テルヘルが近づき、指で碑文をなぞった。
「これは古代語だ。ヴォルダンで使われている古い方言に近い。だが、こんな場所に…?」
彼女は眉間にしわを寄せ、考え込んだ。
「この遺跡はヴォルダンと何か関係があるのかもしれない。もしかしたら、ヴォルダンの軍がかつてここに何かを隠したのかも…」
ラーンは興味なさそうに言った。「そんなことより、早く宝探しを始めろよ。僕たちには時間がないんだぞ」
イシェがテルヘルに尋ねた。「この碑文の意味はわかるのですか?」
テルヘルは静かに頷きながら、小さな革の袋を取り出した。中から細長い金属製の棒を取り出し、碑文に当て始めた。棒の先端には、小さく光る結晶が埋め込まれていた。
「これは古代の道具だ。碑文を解読できるはずだ」
棒を動かすと、碑文の紋様が淡い光で浮かび上がった。テルヘルは真剣な表情で、光る紋様を一つずつ記録した。
ラーンの不機嫌な顔は、イシェに映った。彼女はテルヘルの執念深い様子を見て、どこか不安を感じた。
「一体、この遺跡で何が隠されているのだろう…」
イシェのつぶやきは、石室に消え入っていった。