「準備はいいか?」
ラーンの粗い声が響く。イシェは深呼吸し、懐から小さな袋を取り出した。中に入るのは、テルヘルが用意したという謎の粉末だ。
「あの…本当にこれでいいんですか?」
イシェの不安げな視線を無視し、ラーンは巨大な石扉に手をかけた。
「大丈夫だ。テルヘルが言うんだろ?この符丁を刻めば扉が開くって」
符丁。それは古代文明の遺跡に多く見られる謎の記号だった。その意味や用途は解明されていないが、一部の者は強力な力を持つものだと信じていた。
イシェは扉に刻まれた複雑な模様を見つめた。まるで、誰かの言葉が刻まれていたかのように感じられた。
「よし、行こう!」
ラーンの力強い手つきで扉が開かれると、そこは薄暗く冷たい空気に包まれた通路だった。
「おい、イシェ。何か感じるか?」
ラーンは剣を構え、周囲を見回した。イシェは緊張感に満ちた空気を感じ取った。どこかで、かすかに音が聞こえるような気がした。
「気をつけろ。何かいるかもしれない」
テルヘルが冷たく言った。彼女は常に冷静沈着で、周囲の状況を正確に把握しているように見えた。
彼らは慎重に通路を進んでいく。石壁には、時折符丁が刻まれていた。イシェはそれぞれの記号の意味を解き明かそうと試みたが、どれも理解を超えていた。
「ここだ」
テルヘルが突然止まった。目の前には、広大な地下空間が広がっていた。中央には、巨大な石柱がそびえ立ち、その周りを数多の符丁で覆われた石板が敷き詰められていた。
「ここが…?」
ラーンの声が震えていた。イシェも息を呑んだ。この場所には、何か特別な力を感じたのだ。
テルヘルは石板に手を伸ばし、粉末を撒き始めた。すると、石板に刻まれた符丁が輝きだし、部屋中に奇妙な光が広がった。
「ついに…見つけた…」
テルヘルの声に、狂気のようなものが宿っていた。
イシェはラーンの視線を感じた。彼の瞳には、恐怖と興奮が入り混じっていた。
そして、この地下空間の真の目的が明らかになる時が近づいていた…。