ラーンの巨大なハンマーが石壁を砕き、埃の粉塵が辺り一面に舞った。イシェは咳き込みながら「また無駄な力仕事だな」とぼやく。ラーンは得意げに笑って「そうかな？ この奥には何かある気がするんだ」とばかりに、さらに奥へと進む。だが、イシェの視線は、崩れた石壁の先ではなく、ラーンの背後にある薄暗い通路に向いていた。
いつもなら、そんなラーンの無茶な行動にイシェは呆れながらもついていくのだが、今日はなぜか心落ち着かなかった。テルヘルが持ち出した古い地図には、この遺跡には危険な罠が仕掛けられていると記されていた。ラーンは地図の内容を軽視していたが、イシェは不安を覚えないではいられなかった。
「待てよ、ラーン」
イシェの言葉にラーンは振り返り、「どうしたんだ？」と尋ねる。イシェは言葉を詰まらせ、深くため息をついた。「あの…少し休憩しないか？ 何か変だなって…」
ラーンの顔色が曇った。「変だと？ 何を怖がっているんだ？」イシェは言葉を濁し、「いや、そんな…」と答えるしかなく、ラーンの背中に続く。しかし、足取りは重く、心は落ち着かなかった。
テルヘルは地図を広げ、慎重に遺跡の構造を確認していた。彼女の鋭い視線は、ラーンの無謀な行動を冷静に見つめていた。そして、イシェの不安に共感するような、かすかな笑みを浮かべているようにも見えた。
ラーンが再び石を砕き始めた時、地面から不気味な光が漏れてきた。イシェは背筋がゾッとする感覚に襲われた。立ち止まりたかった。だが、ラーンの熱意と、テルヘルの冷たい視線に押さえつけられるように、足は前に進んでいた。