ラーンの大斧が、埃まみれの石棺の蓋を粉砕した。轟音とともに立ち上る塵煙の中に、イシェはわずかに眉をひそめた。いつも通りの荒々しいやり方だ。だが、彼には他に方法がない。
「よし、宝箱だな！」
ラーンは興奮気味に蓋をどけ、中をのぞき込んだ。しかし彼の顔色がみるみるうちに曇り始める。中には何も入っていなかったのだ。イシェも肩を落とす。空っぽの石棺が遺跡の奥深くで、まるで嘲笑うように彼らを待っていた。
「またかよ…」
ラーンのため息は虚しさを帯びていた。いつも通りだ。大穴にたどり着く夢を胸に、無数の遺跡を探索してきたが、見つけるのは空虚な石棺ばかりだった。イシェは彼の肩を軽く叩き、「次があるさ」と励ました。
だが、イシェ自身も空虚な気持ちに苛まれていた。ビレーの街並みを背に、今日も彼らには何も残らなかった。
その時、テルヘルが鋭い視線を向けた。「待て」。彼女の指先が何かを掴んでいる。石棺の底に、薄く光る線があったのだ。イシェは目を凝らすと、線は複雑な模様を描き、壁一面に広がっていることに気付いた。
「これは…？」
ラーンの声は戸惑いを含んでいた。テルヘルは沈黙を守りながら、慎重に模様を辿っていく。その目は冷たく、そしてどこか遠くを見つめているようだった。イシェは、彼女の背中に感じる不気味な空気を察知した。
「何かわかるのか？」
ラーンの問いかけに、テルヘルはゆっくりと頷いた。「これは…ヴォルダン王家の紋章だ」。彼女の言葉には確信が込められていた。空虚な石棺の底に刻まれた紋章は、彼らを新たな闇へと誘う入り口だった。