「おい、イシェ、あの石碑、どう見える？」
ラーンが指差す方向には、苔むした石碑が立っていた。イシェは眉をひそめた。
「また見慣れない記号だ。意味不明だし、触るなと言ってるような気がするわ」
「そんなこと言わずにさ、見てみろよ！もしかしたら大穴のヒントが書いてあるかもしれない！」
ラーンの興奮した様子を見て、イシェはため息をついた。いつも通り、ラーンは空振りばかりしている。
「いいわよ、わかった。でも、何かあったら責任は取れるんでしょ？」
「もちろんだよ、イシェにはいつも助けてもらってるから」
ラーンの言葉に、イシェは少しだけ安心した。だが、この遺跡探索には何かがおかしいと感じていた。テルヘルが雇った当初から、彼女の目的が漠然としており、遺跡の場所も曖昧だ。まるで迷宮を彷徨うようだ。
石碑に刻まれた記号を解読しようと試みるイシェだったが、意味不明な文字列ばかりで頭が痛くなる。ラーンは石碑を蹴飛ばそうとするが、テルヘルがそれを制した。
「待て、ラーン。この遺跡には何かがあるはずだ。慎重にならなければ」
テルヘルの冷たい視線に、ラーンは黙り込んだ。イシェはテルヘルの言葉の裏にある何かを感じ取っていた。彼女の目的は遺跡の調査だけではない。何か別のもの、何か大きなものを探しているのだ。
「よし、この記号をメモして、後で調べてみよう」
イシェがそう言うと、ラーンは不満げに頷いた。テルヘルは石碑をじっと見つめ、何かを企んでいるかのように微笑んだ。
遺跡の奥深くへと続く通路を見つめるラーンの背中は、どこか虚ろに見えた。彼の夢を叶えるために、彼は空回りしているのだろうか。