ラーンが剣を研ぎ澄ます音だけが、薄暗い小屋の中に響いていた。イシェは小指の爪を噛みながら、地図を広げていた。テルヘルは背を向けて、何かを書き留めているようだった。
「なあ、イシェ。今日の目標はどこだっけ？」
ラーンが尋ねると、イシェは眉間にしわを寄せた。「地図には…『忘れられた神殿』とあるけど、場所が曖昧すぎる。ビレーから東へ、三日の道のりを目指すらしい」
「三日の道のりか…」
ラーンの顔色が少し曇った。三日は長すぎる。いつもならイシェが事前に調査をして、危険な場所を避けるルートを選んでくれたが、今回はテルヘルが急いでいるようだった。
「テルヘル、この遺跡について何か知っているのか？」
イシェが尋ねると、テルヘルは静かに頷いた。
「ヴォルダンに破壊されたという記録がある。だが、その前に何があったのか、誰も知らない。そこには、私が探しているものがあるかもしれない」
彼女の目は燃えるような光を宿していた。ラーンは少し怖くなりつつも、テルヘルの言葉には惹きつけられた。
出発の日。ビレーの賑やかな市場を抜け、三人は山道を北上した。道中、イシェが小さな空き地を見つけた。そこには、かつて何かがあったのか、石碑のようなものが残されていた。イシェは慎重にその石碑に刻まれた文字を調べたが、意味を解き明かすことはできなかった。
「ここは一体…」
イシェの呟きに、ラーンもテルヘルも首を傾げた。空に向かって、大きな鳥が羽ばたいていく。三人は再び歩き始めた。
日が暮れ始めると、遠くで火の光が見えた。「今日こそは泊まろう」とラーンが言うと、イシェは頷いた。火の光の方へ近づくと、小さな村があった。村人たちは警戒しながらも、三人に食料と宿を提供してくれた。
夜、ラーンは焚き火を囲みながら、イシェに話しかけた。「イシェ、あの石碑のこと、気になるよな？」
イシェは少し沈黙してから言った。「何かがそこに隠されているような気がするんだ…」
二人は言葉を交わしながら、星空を見上げた。テルヘルは一人、村の外れにある空き地に立ち尽くしていた。空を見上げると、星が一つ輝き始めた。それは、まるで誰かが彼女を呼んでいるようだった。