「よし、今回はあの崩れた塔だな」
ラーンの豪快な声はビレーの朝の喧騒を掻き消すほどだった。イシェはいつものように眉間に皺を寄せながら、彼の計画書を眺めていた。
「またあの塔？ 以前も言っただろう、あの塔は危険すぎるぞ。何せ入り口から崩れかかっていて、中はどうなっているのか見通せない」
「だが、だからこそ面白いじゃないか！ きっと大穴が眠っているはずだ！」
ラーンの瞳は興奮を隠せない。イシェはため息をついた。ラーンの楽観的な性格にはいつも手を焼いていた。
「で、今回は何の遺物が見つかると思う？」
ラーンは得意げに言った。「きっと古代の王冠だ！ 輝かしい宝石が埋め込まれていて…」
イシェは彼の空想を遮った。「現実的になれよ、ラーン。遺跡探索なんてそんな甘くない。ましてや大穴なんて…」
その瞬間、背後から冷たく澄んだ声が響いた。「大穴が見つかるかどうかは、我々の努力次第です」
テルヘルが彼らの後ろに立っていた。彼女の鋭い視線はまるで氷のように冷たい。ラーンとイシェは思わず息を呑んだ。テルヘルの存在感はいつも重く、彼女に逆らった者はいない。
「今回は特に重要だ」
テルヘルは地図を広げ、崩れた塔の位置を示した。「この遺跡にはヴォルダンが欲しがっている情報があると噂されている。我々はそれを手に入れる必要がある」
ラーンの顔色が変わった。「ヴォルダンか…！」
イシェも緊張を隠せない様子だった。ヴォルダンはエンノル連合の脅威であり、テルヘルにとって復讐の対象である。
「では、準備は良いか？」
テルヘルの声は冷酷に響いた。「今回は失敗は許されない」
ラーンとイシェは互いに頷き合った。彼らは危険な遺跡へ足を踏み入れることになるのだ。彼らの運命は、ヴォルダンとの戦いと深く結びついていることを誰もが知っている。