ビレーの朝焼けが、ラーンの寝起きと同時に埃っぽい部屋に差し込んだ。イシェは既に起きていて、粗末なテーブルの上で地図を広げていた。
「今日はあの遺跡だな。テルヘルが言うには、ヴォルダンが何か隠した場所らしいぞ」
イシェは眉をひそめた。「またヴォルダンの話か。あの女の復讐劇に巻き込まれるのも気が重いよ」
ラーンは寝癖を直しながら言った。「気にすんな。大穴が見つかるかもしれないんだろ? それにテルヘルが言うには、今回は特に珍しいものらしいぞ。移植できるって」
イシェはため息をついた。「移植って…一体何だ?」
「知らねえよ。テルヘルに聞けば分かるだろ。とにかく今日はいい日になりそうだぜ!」
ラーンは剣を手に取り、イシェの肩を叩いた。イシェは深くため息をつきながら立ち上がった。
テルヘルはビレーの外れにある酒場で待っていた。彼女の冷たい視線と鋭い表情は、いつも通りだった。
「準備はいいか?」
テルヘルが尋ねると、ラーンはにやりと笑った。「いつでも行くぜ!」イシェは小さく頷き、地図を広げた。
遺跡の入り口は、崩れかけた石造りの階段だった。薄暗い内部へと続く階段を下りるにつれて、空気が冷たくなり、湿り気を帯びてきた。
「何か感じる… 」
イシェが呟くと、ラーンも静かに頷いた。不気味な静けさの中で、かすかな音だけが響いていた。それはまるで、眠りから覚めようとする何かが、ゆっくりと息を吸っているような音だった。
遺跡の中心部には、巨大な石棺が置かれていた。棺の表面には複雑な模様が刻まれており、どこか不気味な美しさを放っていた。テルヘルは慎重に棺を開け始めた。
「これは…」
イシェが息をのんだ。棺の中には、人間の形をした奇妙な装置が入っていた。それはまるで、人の脳や神経を模倣した機械だった。
「移植…これが移植か」
テルヘルは呟きながら、装置を手に取った。その瞬間、装置から青い光が放たれ、部屋全体を照らし出した。
ラーンとイシェは目を細めた。そして、その時、彼らは気が付いた。装置から放たれる光の中に、何かが蠢いているように見えたのだ。それはまるで、生きた細胞が脈打つような、不気味な生命の兆候だった。