ラーンの重い息遣いが、埃っぽい洞窟の静寂を破った。汗が額を伝い、視界を霞ませていた。イシェは、彼の後ろから小さくため息をつきながら、地図を広げた。「ここからは慎重に、ラーン。あの崩れかかった壁の向こう側が、遺跡の核心だと記録に残っているんだ」
ラーンの顔は、影の中に隠れて見えにくいが、その表情はどこか焦燥感に満ちていた。「イシェ、俺たちには時間がないんだ。ヴォルダンとの戦いが始まってしまう前に、あの伝説の大穴を見つけ出さないと…」
イシェは彼の言葉を遮り、冷静に言った。「大穴の話は、ただの噂かもしれないわ。それに、ヴォルダンがどうなろうと、この遺跡から何かを手に入れることが最優先よ」
その時、洞窟の奥深くから、かすかな光が漏れてきた。ラーンは目を輝かせた。「あれだ！イシェ、あの光…もしかしたら…」
興奮を抑えきれないラーンの背後から、テルヘルが冷たく声をかけた。「落ち着きなさい。まだ何とも言えない」
彼女は、壁の隙間を覗き込み、その表情にわずかな変化があった。「確かに何かがあるようだ。しかし、この光は…自然のものとは違う」
三人はゆっくりと崩れた壁の方へ進み始めた。壁の向こう側には、広大な空間が広がっていた。そこには、不規則な形をした石柱が何本も立ち並び、中央には巨大な水晶が輝いていた。その水晶からは、まるで生きているかのように、脈打つような光が放たれていた。
「これは…」イシェは言葉を失った。ラーンは、その光景に圧倒されながらも、水晶の光に向かって手を伸ばした。「ついに…俺たちが見つけたぞ！大穴だ！」
だが、テルヘルは彼の動きを制止し、水晶に近づきながら言った。「この光…これはただの石ではない。何かが宿っている」
彼女の視線は、水晶の上部にある小さな亀裂に向けられていた。そこには、まるで生きているかのように、ゆっくりと脈打つ影が見えた。その影は、まるで彼らを見据えているようだった。
「この遺跡…そしてこの光…。全ては移ろいゆく何かを孕んでいる」テルヘルはそう呟きながら、水晶に手を伸ばした。彼女の瞳には、かつて奪われたものを取り戻すという決意と、同時に、何か恐ろしいものに対する予感が宿っていた。