「準備はいいか?」ラーンのざわめく声と、イシェの静かなため息がビレーの朝の霧の中に溶け込んでいく。テルヘルは彼らを鋭い目で睨みつけながら、地図を広げた。
「今日はあの廃墟だ。噂では奥に巨大な部屋があるらしい。そこに何かが眠っているという話だ」
ラーンは目を輝かせた。「ついに大穴が見つかるかもな!」
イシェは眉をひそめた。「そんな楽観的な話じゃない。遺跡の危険性について、改めて確認しておく必要がある」
テルヘルは無視して地図を指差した。「ここは崩落の可能性が高い。慎重に進まなければ」
ラーンの表情は曇り始めた。「またイシェに説教かよ。いいんだ、俺たちにはテルヘルがいるんだろ?何でも解決してくれるって信じてるぜ!」
イシェはため息をついた。ラーンが信じる「何でも解決してくれる」とは、テルヘルの持つ情報と戦闘能力のことだ。だがイシェには、テルヘルの言葉の裏に何か別のものを感じ取れる。彼女の目的は遺跡の宝ではない。何か別のもの、何かを手に入れたいという強い意志を感じたのだ。
廃墟へと続く道のりは険しく、危険な罠が待ち受けていた。ラーンは軽々と罠をかわし、イシェは冷静に状況を判断しながら進む。テルヘルは常に一歩先を歩き、鋭い視線で周囲を警戒していた。
「ここだ!」
ラーンの声が響き渡り、巨大な扉の前へとたどり着いた。扉には複雑な模様が刻まれており、どこか禍々しい雰囲気を漂わせていた。
「開けろ」テルヘルは言った。
イシェは不安を感じた。「この扉を開けるには何かしらの儀式が必要だと思う。無理に開けては危険だ」
しかしラーンの好奇心とテルヘルの強い意志の前に、イシェの意見は無視された。テルヘルは古代の呪文を唱え始めた。すると扉から不気味な光が放たれ、ゆっくりと開いていった。
扉の先には広大な部屋が広がっていた。中央には巨大な祭壇があり、その上には輝く宝石が置かれていた。ラーンは興奮した様子で宝石に近づこうとしたが、イシェは彼を引き止めた。
「待て!何かおかしい」
その時、床から黒い煙が立ち上がり、部屋全体を覆い始めた。煙の中から不気味な声が聞こえてきた。
「汝らは我を目覚めさせた者たちか…。」
ラーンとイシェは恐怖で言葉を失った。テルヘルだけが冷静さを保ち、剣を握り締めた。彼女の瞳には、かつてヴォルダンに奪われたものを取り戻すための決意が宿っていた。
「秤量」
彼女は呟いた。その言葉には、遺跡の宝以上の価値がある何かが秘められていた。