ラーンの大斧が石壁に深く食い込んだ。埃が舞う中、イシェが眉間に皺を寄せながら石畳の上を確認した。「ここじゃない…また外れか?」
「おいおい、イシェ。根気強く探さないと見つからないぞ」とラーンは陽気に笑ったが、彼の瞳にはわずかな影が宿っていた。最近の遺跡探索はことごとく失敗に終わり、資金も底をつきかけている。
「そう簡単に言えるのはお前だけだよ。あの日、ビレーで…」イシェは言葉を濁した。あの日の出来事は、ラーンの過去と深く結びついていた。ある遺跡で発見された謎の石碑、その刻まれた文字がラーンに何かを語りかけるように感じたのだ。しかし、その石碑はヴォルダン軍に奪われ、ラーンは故郷を失い、イシェと共に逃亡生活を送ることになった。
「よし、今日はもう引き上げるか」ラーンの声が響いた。イシェも頷く。日が暮れ始め、辺りは薄暗くなり始めた。その時だった。背後から冷酷な声が聞こえた。「待ってください。まだ探索は終わりではありませんよ」。
振り返ると、そこに立っていたのはテルヘルだった。彼女は鋭い眼光で二人を見下ろす。黒曜石のような瞳は何かを隠しているようだった。「あの石碑について、何か情報を持っているのですか?」ラーンが問いかけた。テルヘルは小さく頷いた。「私はヴォルダンに全てを奪われた。復讐を果たすために、あの石碑の秘密を探しています」
彼女の言葉には確固たる意志と、どこか悲しげな影が感じられた。イシェはラーンの視線を感じた。あの日、ラーンが石碑に感じたものとは何だったのか?それは彼にとって大きな謎であり、同時に、秘められた真実への扉を開ける鍵だった。