「よし、今日はあの崩れかけの塔だ」ラーンが目を輝かせると、イシェはため息をついた。「また無計画な… 遺跡調査の許可も取らずに単独で行くつもり？」
「そんなこと言わずに準備してろよ！今回は必ず大物が見つかるぞ！」ラーンの豪快な笑い声は、ビレーの賑やかな市場の喧騒にも負けないほどだった。イシェは諦めたように肩をすくめ、いつものように準備を始めた。
テルヘルは二人が出発する直前に現れた。「今日の依頼はキャンセルだ」彼女の冷たい視線はラーンに向けられていた。「ヴォルダンとの情報共有を優先するためだ」
ラーンの顔色が一変した。「そんな！俺たちの約束はどうなるんだ？」
「約束などない。お前たちはあくまで私の駒だ」テルヘルは冷酷に言った。「今回は重要な任務がある。従わなければ、お前たちの人生は終わりだ」
イシェはラーンの表情をじっと見ていた。彼の瞳には、いつも通りの自信と冒険心が燃えていたが、どこか不安げな影も混ざっていた。イシェは彼が隠している何かを感じ取ることができた。
「わかった、従う」ラーンは渋々頷き、テルヘルに従って去っていった。イシェは二人の背中を見送りながら、胸に抱えた不安を押し殺した。
夜、イシェは秘密裏にラーンの部屋を訪れた。「一体何が起こっているんだ？テルヘルが何を企んでいるのか…」
ラーンは苦しそうにため息をついた。「実は…俺、テルヘルに頼まれたんだ。ヴォルダンに潜入して、ある情報を手に入れる任務を」
イシェは驚愕した。「そんな危険な…なぜそんなことを？」
「あの日、俺はテルヘルに何かを隠されていたことに気づいたんだ。彼女はヴォルダンの過去に何か秘密を抱えている。そして、その秘密を暴くために俺を利用しようとしている…」ラーンの目は揺らぎ、苦渋の表情を浮かべていた。「でも、俺は…俺も何かしたいんだ。あの遺跡で手に入れた情報が、テルヘルの復讐と、この国の未来を変えるきっかけになるかもしれないと思った」
イシェはラーンの決意に心を痛めた。彼女は彼を止めようとしたが、彼の目は揺るぎない決意を示していた。
「わかった… 私はあなたのことを信じる。どうか気を付けて」イシェはラーンを抱きしめながら、静かに涙を流した。二人は互いに秘め事を知ることで、より強い絆で結ばれたのだった。