ビレーの酒場は今日も賑やかだった。ラーンの豪快な笑い声が響き渡り、イシェは苦笑しながらグラスを傾ける。テルヘルは鋭い視線で客の動きを伺っている。
「よし、明日の遺跡はあの東にある谷底のものだな。地図によると祭祀場跡らしいぞ」
ラーンが興奮気味にテーブルを叩く。イシェは眉間にしわを寄せた。
「また危険な場所か? 噂ではそこは崩落が多いって聞いたぞ。」
「大丈夫だ、イシェ。俺が先頭を切って道を開けばいいんだ」
ラーンの言葉にイシェはため息をついた。テルヘルは静かに口を開く。
「地図には祭祀場跡だと記されているが、その真の目的は何か。ヴォルダンとの関連性も探らなければならない。」
彼女の目は冷たかった。ラーンとイシェには理解できない複雑な思惑があった。
翌朝、遺跡へと向かう三人の姿は、朝霧の中に溶けていくように静かに消えていった。谷底に広がる遺跡は、かつて栄えた祭祀場の名残を留めていた。崩れた石柱、朽ち果てた祭壇、そして奇妙な模様が刻まれた壁画。
「ここには何かあるぞ…」
ラーンの視線が壁画に釘付けになった。そこに描かれていたのは、星々の配置と、その中心に君臨する巨大な獣の姿だった。イシェは背筋を寒気に襲われた。
その時、地面が激しく震え始めた。崩落が始まったのだ。ラーンはイシェを引っ張り、テルヘルと共に逃げ場を求めた。
「これは…」
テルヘルは壁画を指さした。星々の配置が、今まさに空に現れている。そして、獣の姿がゆっくりと動き始めるのを感じた。
「祭祀とは何か…ヴォルダンが何を企んでいるのか…」
彼女の声は震えていた。三人は崩落する遺跡から逃げるように脱出したが、彼らの心には深い不安が残されていた。祭祀の謎、ヴォルダンの陰謀、そして自分たちの運命…。その答えは、まだ見ぬ遺跡に眠っているのかもしれない。