ビレーの朝はいつもと変わらない喧騒で始まった。ラーンがイシェを起こそうとした時、二階から音がした。「またあの老人が騒いでるのか?」イシェがぼやくように言うと、ラーンの顔に笑みが広がった。「今日はいい日になりそうだぞ」。
今日も遺跡だ。ビレーの辺境では珍しい、比較的大きな遺跡への調査を依頼されたのだ。依頼主はいつも通りのテルヘル。今回は報酬も高く、さらに遺跡の持ち出し物を独占できるという条件付きだった。イシェは眉をひそめたが、ラーンは「やったぜ!」と拳を握り締めた。
遺跡へと続く道は険しく、日差しは容赦なく照りつける。イシェは疲れを感じながらも、ラーンの後ろ姿に少し安心感を得ていた。テルヘルはいつも通りの鋭い視線で周囲を警戒し、何かを察知しているかのように落ち着かない様子だった。
遺跡の入り口には、石造りの巨大な門がそびえ立っていた。門の上には、まるで生き物のように見える彫刻が施されていた。イシェはその複雑な模様に目を奪われた。「これは...祥瑞?」彼女は呟いた。ラーンは「祥瑞?そんなもん知るか」と笑って答えたが、テルヘルは少しだけ表情を曇らせた。
遺跡内部は暗く湿っていた。薄暗い光が差し込む中、壁には奇妙な絵画が描かれていた。イシェは壁に描かれた紋章を見て、背筋が寒くなった。「これは...ヴォルダンのものでは?」彼女は不安げに言った。ラーンは「そんなこと気にすんな」と励ますが、テルヘルは表情を硬くしたまま黙り込んだ。
奥深くまで進むにつれ、遺跡の空気が重くなっていった。そしてついに、彼らは巨大な部屋に出た。中央には、輝く宝箱が置かれていた。ラーンの目は輝き、イシェも息を呑んだ。しかし、テルヘルは宝箱を見る前に、天井に目を向けた。「これは...」
天井から伸びる影、それはまるで巨大な翼のようだった。そして、その影の下から、ゆっくりと何かが動き出した。