ビレーの朝の空気はいつもよりも冷たかった。ラーンがイシェを起こすにはいつもより力が必要だった。
「今日はいい日になりそうだな」とラーンはいつものように豪語するが、イシェは彼の顔色から何かを感じ取っていた。「何だか落ち着かない気がする…」と呟いた。
テルヘルは既に準備を終えていた。彼女の鋭い視線は、まるで2人の未来を貫くかのように冷たかった。
「今日の遺跡は、昔この地域に栄えた王国の王墓と言われている。伝説によると、その王は神々に愛された存在であり、彼の墓には莫大な財宝と共に、神の力を秘めた遺物があると伝えられている」
テルヘルの言葉は、ラーンの心を躍らせた。しかしイシェは不安を募らせていた。王墓にまつわる古い言い伝えを彼女は知っていた。王が神々から授かった力とは、同時に恐ろしい呪いも伴うという…。
遺跡の入り口には、奇妙な彫刻が施されていた。まるで古代の人々が何かを語り継ごうとしていたかのように。ラーンは気にせず、剣を構えて中へと進んでいった。イシェは少し遅れて、後ろから彼を見つめた。彼女の目は、彫刻に刻まれた古代の物語を読み取ろうとしていた。
遺跡の中は、薄暗く、湿った空気が漂っていた。壁には、王の栄華を物語る壁画が描かれていたが、どこか歪んでいて不気味な印象を与えていた。ラーンの足音だけが、静寂の中に響き渡っていた。
「ここだ」テルヘルが言った。彼女は、奥へと続く通路の前に立っていた。通路は、まるで巨大な蛇の口のように開いていた。その奥から漂ってくるのは、冷たく湿った空気だけでなく、何か邪悪なものを感じさせる不気味な空気が流れていた。
ラーンは、剣を握りしめ、意を決したように前に歩み出した。イシェは彼を止めようとしたが、手遅れだった。
「待て!」
彼女の叫び声は、遺跡の奥へと吸い込まれていった。
そして、ラーンの背後から、不気味な声が聞こえてきた。それはまるで、古代の呪いの言葉のようだった…。