「よし、今回はあの崩れかけた塔だな！」ラーンが目を輝かせると、イシェはため息をついた。「またそんな危険な場所？ 何度言ったらわかるんだ、あの塔には呪いがあるって！」
「呪いって！そんなの迷信だろ！」ラーンは豪快に笑った。だがイシェは彼の背中に向けられた剣と、その持ち主に宿る無謀な勇気に不安を感じていた。
テルヘルは冷静に地図を広げて言った。「塔には古代文明の遺物がある可能性が高い。特に地下深くにある『聖なる部屋』と呼ばれる場所には、強力な魔力が眠っていると伝えられている」
「聖なる部屋…」イシェは言葉を失った。神聖な場所への憧憬と恐怖が同時に彼女の胸を締め付け始めた。ラーンはそんなイシェの手を掴んで言った。「大丈夫だ！俺が守るぞ！」彼の笑顔は、まるで太陽の光のように明るく輝いていた。
遺跡へと続く道を進むにつれ、空気が重く湿気を帯びていった。崩れ落ちた石畳の上には、奇妙な模様が刻まれており、不気味な影を落とす。イシェは背筋に鳥肌が立つ感覚を覚えた。
塔の内部は薄暗く、埃っぽい空気が充満していた。壁一面には、まるで呪文のような複雑な文字が描かれていた。ラーンは興味津々に文字を指さして言った。「これって古代語じゃないか？もしかしたら、宝のありかを示すヒントが書いてあるかも！」
イシェは不安を感じながらも、彼に寄り添いながら進んだ。だが、塔の奥深くを進んでいくにつれ、彼女の中に不吉な予感が広がっていった。壁から滲み出る湿気、床に落ちている朽ち果てた骨、そして、聞こえるような聞こえないような、誰かの囁き声…。
「イシェ、大丈夫か？」ラーンの声がかすかに響いた。彼女は小さく頷くだけで、恐怖を押し殺した。
ついに彼らは『聖なる部屋』にたどり着いた。そこは広くて空っぽの部屋で、中央には祭壇が置かれていた。祭壇の上には、光り輝く水晶球が鎮座していた。
「これが…聖なる部屋か…」ラーンの声が震えていた。「そして、これが…」
彼は水晶球に触れようとしたその時、突然、部屋全体を覆うように激しい風が吹き荒れた。壁から崩落し始める石塊が彼らを襲い、イシェはラーンを抱きしめながら転がった。
「ラーン！」イシェの声がかすかに響いた。彼女は彼の顔を見て、恐怖と安堵の感情が同時に湧き上がってきた。彼は目を閉じていたが、生きている。
水晶球から放たれた光が部屋を照らし出すと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。壁に描かれた模様が輝き始め、部屋の中央では、巨大な影がゆっくりと動き始めた。それは、神聖でありながらも恐ろしい存在だった。