「おいラーン、今回は本当に大穴が見つかる気がするんだ！」イシェの興奮を抑えきれない声がビレーの賑やかな市場を掻き消すように響いた。ラーンはいつものように、無精ひげを生やした顔に陽気な笑みを浮かべている。「そうだなイシェ！今日は絶対に大物が入るぞ！」
二人はテルヘルと共に、遺跡へと続く山道を登っていた。テルヘルはいつも通り、黒曜石のような瞳で鋭い視線で周囲を警戒していた。彼女の背中には、ヴォルダンとの戦いで刻まれた傷がうっすらと残っている。それは彼女を常に怒りに燃やし続ける燃料となっている。
「あの遺跡の奥深くに眠っていると噂される神々の遺物…もし手に入れられたら…」テルヘルは呟いた。その言葉にラーンとイシェは一瞬言葉を失った。彼らはいつも、遺跡探検の興奮や冒険心で突き動かされていたが、テルヘルの目的はそれとは違った重みがあった。復讐のためならどんな犠牲も厭わない彼女の決意は、二人が決して触れてはいけない領域だった。
遺跡の入り口には、かつて栄華を極めた文明の名残である巨大な石柱が残されていた。柱には複雑な模様が刻まれており、まるで神々の言葉を記したかのようだった。イシェは慎重に石柱に触れながら、その歴史を感じ取ろうとした。「何か感じるものがある…」彼女は呟いた。
ラーンはいつものように、剣を片手に遺跡の中へと入っていった。彼の背中には、神々への挑戦のような気迫がみなぎっていた。イシェとテルヘルは互いに顔を見合わせた。二人は、ラーンの無邪気な冒険心と、テルヘルの復讐の炎が、やがてこの遺跡に眠る何かを呼び覚ますのではないかと危惧した。 そして、その何かが、この世界を大きく変える可能性があることを深く感じ取った。