ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がなかった。ラーンがイシェに声をかけると、彼女は硬い表情で杯を傾けた。
「また失敗か?」
「ああ、あの遺跡は罠だらけだった。宝なんか一つ見つからなかった」
ラーンの肩が落ち込む。イシェは彼を哀れな顔で見つめた。ラーンはいつも大口を叩いては、結局何も得られない遺跡探索に明け暮れている。イシェはそんな彼の夢を少しだけ応援していたが、現実主義者としてその無謀さを心配していた。
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。彼女の鋭い視線は、酒場の隅々まで行き渡り、客たちの背筋を凍らせた。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。テルヘルはいつも冷静沈着だが、今日は何かが違う。彼女はテーブルに重く手を打ちつけた。
「次の仕事だ。ヴォルダン国境近くの遺跡だ。あの遺跡には、ヴォルダンが恐れを抱き礼拝する遺物があるらしい」
ラーンの目は輝き始めた。イシェはため息をついた。テルヘルはいつも危険な依頼ばかり持ちかけてくる。
「報酬は?」ラーンが尋ねた。
テルヘルは薄暗い瞳をラーンに向け、ゆっくりと口を開いた。「莫大な富だ。そして、ヴォルダンへの復讐の第一歩となるだろう」