ビレーの tavern の喧騒は、ラーンの耳にはかすかに聞こえる程度だった。視線は、テーブルの上の地図に釘付けだった。イシェが指さす地点は、いつもとは違う場所だ。
「ここだと…？」 ラーンは眉をひそめた。「危険すぎるんじゃないのか？あの遺跡は、ヴォルダン軍も調査したって噂だろ？」
イシェは小さく頷いた。 「だから、テルヘルが興味を持ったんだと思う。何か特別な遺物がある可能性が高いと。もちろん、危険は伴う。だが…」 彼女の瞳に、いつも以上に強い光が宿っていた。「あの遺跡には、ヴォルダンにとって重要なものがあるらしい。それが分かれば…」
ラーンの心はざわついた。ヴォルダンへの復讐。テルヘルはそう言い聞かせていた。だが、ラーンにとっては、単なる「仕事」だった。遺跡探索、そして大穴を探すこと。イシェの言葉に突き動かされるように、彼は剣を手に取った。
その日、三人はビレーを後にした。目的地へ向かう道中、ラーンの背筋にはぞくぞくする感覚が走った。ヴォルダン軍の哨戒隊が頻繁に見かけるようになったのだ。彼らはまるで、この地を監視しているかのようだ。
遺跡への入り口は、岩肌に切り開かれた狭い通路だった。テルヘルが先頭を歩き、ラーンとイシェは後を続いた。空気が冷たく、湿気を帯びていた。通路の奥から、かすかに金属音が聞こえた。
「何かいる…！」 イシェが小声で言った。
ラーンの視界に、影がちらついた。何者かが彼らに近づいてくる。剣を構えるラーンの指先は震えていた。
その時、テルヘルは突然立ち止まった。
「待て。」 彼女の顔には、どこか冷静な表情があった。「これは、ヴォルダンの策略だ。彼らを牽制する必要がある。」
ラーンは言葉を失った。イシェも同様だった。テルヘルが何を企んでいるのか理解できなかった。だが、彼女の言葉には、確固たる意志が込められていた。
テルヘルはゆっくりと剣を抜き、その刃を高く掲げた。その姿は、まるで女王のように輝いていた。
「ヴォルダンに示すのだ！我々は決して屈しない！」