ラーンが石ころを蹴飛ばすと、それは乾いた音を立てて崩れ始める近くの崖の縁へ消えていった。イシェが眉間に皺を寄せながら地図を広げると、ラーンの無茶な行動にため息をついた。「あの道は危険だと言っただろう。ヴォルダンとの国境に近い場所だし、遺跡探検なんてするべきじゃない」
「大丈夫だって!ほら、あの遺跡の入り口が見えたぞ!」ラーンが興奮気味に指差す方向には、崩れかけている石造りの門があった。かつて栄華を極めた文明の痕跡であるはずなのに、今は風化と侵食によって、その姿はぼんやりとしか見えなかった。
「でも…」イシェが抗議しようとしたその時、テルヘルが鋭い視線で二人を見据えた。「時間がない。目標は遺物だ。無駄な議論はするな」
テルヘルの言葉に、ラーンもイシェも黙った。三人は遺跡の入り口へと足を踏み入れた。薄暗い通路を進むにつれ、壁には奇妙な模様が刻まれていた。かつてこの場所に住んでいた人々の信仰や文化を垣間見ることができるような気がした。しかし、その模様はどこか歪んでいて、まるで時間の流れに飲み込まれそうになっているかのように見えた。
「ここには何かある」イシェが呟くと、ラーンは興奮気味に剣を抜いた。「よし、宝探しの始まりだ!」
だが、彼らの前に立ちはだかるのは、ただの宝ではなかった。遺跡の奥深くで、何者かが待ち受けている気配を感じた。それはかつて栄華を極めた文明の残骸から生まれた何かであり、その存在はまるで時間そのものが磨滅し、形を変えて戻ってきたかのようだった。