「よし、今回はあの崩れた塔だ」ラーンが地図を広げ、指さした先には荒れ果てた石造りの塔が描かれている。「あの塔は危険だぞ」イシェが眉間に皺を寄せた。「噂では、かつて魔道士が封印した何かがいるって…」 ラーンの笑顔は崩れなかった。「そんな話はただの作り話だろう。ほら、テルヘルさんも一緒なら大丈夫だ」
テルヘルは鋭い視線で地図を見つめていた。「塔の内部構造については資料がない。慎重に進もう」と彼女は静かに言った。ラーンの無謀さとイシェの慎重さをよく知るテルヘルは、二人が互いに補完し合う関係性を理解していた。そして、その関係性を利用できるのもテルヘル自身にとって大きな利点だった。
遺跡への道は険しく、崩れかけた岩肌を登り、荆棘が生い茂る道を進む。イシェは細心の注意を払いながら足元を確認するが、ラーンは軽快に進んでいく。テルヘルの視線は常に周囲を警戒している。「何かいるぞ」
イシェの声にラーンが振り返ると、巨大な影が彼らに迫っていた。巨大な蜘蛛のような怪物だ。鋭い牙と複数の目が不気味に光り、毒液が滴っているのが見える。「逃げろ！」イシェの叫びと共に三人は逃げるように塔の中へ飛び込んだ。
崩れた石畳を駆け抜け、薄暗い通路を進んでいく。後ろから追いかけてくる怪物に挟撃されそうになる。ラーンは剣を振りかざし、イシェは小回りを利かした動きで攻撃をかわす。テルヘルは冷静に状況を見極め、隙を見て敵に魔法弾を放つ。「この塔は魔道士の封印が弱まっている」テルヘルが言った。「封印を維持するためには、中心にある結界石を活性化させなければならない」
ラーンの剣は怪物に深く突き刺さり、イシェは巧みな動きでその足元に毒薬を撒いた。だが、怪物はなかなか倒れなかった。その時、塔の奥から不気味な声が響き渡った。「お前たち…誰だ？」
声の主が現れた。それは、長い黒髪と赤い目をした美しい女性だった。「この塔を守る者だ」女性は氷のように冷えた声で言った。「お前たちは破門された魔道士の子孫か？」ラーンの顔色が変わった。「破門…？そんな…」イシェも驚いて言葉を失った。
テルヘルは冷静さを保ち、女性に尋ねる。「なぜここにいるのか…そして、この塔の秘密とは？」女性は静かに答えた。「この塔には、かつて世界を滅ぼす力を秘めた魔物が封印されている。破門された魔道士の子孫がその力を手に入れることを阻止するため、私はここにいる」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らは遺跡探索の危険性を常に理解していたが、まさかこんな秘密が隠されているとは思いもしなかった。そして、テルヘルの目的もまた、この塔に深く関わっているように思えた。