ビレーの夕暮れ時、ラーンは酒場で豪快に笑い声を上げていた。イシェはいつものように眉間に皺を寄せながら、彼を見つめていた。
「また遺跡でトラブルでも巻き起こしたのかい?」
イシェの冷めた視線を受けると、ラーンの笑顔は少し薄れた。
「いやいや、今回は大漁だったんだ!あの古代の魔導具が手に入ったって話だ」
ラーンはテーブルに手を打ちつけ、興奮気味に語った。だが、彼の目はどこか自信なさげだった。イシェは、彼の話に嘘はないと分かっていた。しかし、ラーンの言葉の裏にある不安を感じ取ることができた。
「あの魔導具…テルヘルが欲しがってたやつだっけ?」
イシェの問いかけに、ラーンは苦笑いした。
「ああ、そうだな。でも、俺たちが発見したんだ。権利は ours だ」
ラーンの言葉に力強さがないことに、イシェは不安を覚えた。テルヘルは冷酷な女性だ。目的のためには手段を選ばない。彼女が欲しがったものを手に入れたら、ラーンたちの運命は…?
その夜、ビレーの街は静寂に包まれていた。ラーンの寝息だけが部屋に響いていた。イシェは窓の外を眺めていた。遠くでヴォルダンの影が伸びているように見えた。
翌日、テルヘルは遺跡探索を中止すると宣言した。理由は「新たな情報を手に入れたから」だった。イシェは彼女の言葉の裏に何かあると感じていた。ラーンは安堵の表情を浮かべていたが、イシェは彼の笑顔に偽りを感じた。
数日後、ビレーで怪しい動きがあった。何者かがラーンの家に忍び込み、何かを盗もうとしたらしい。ラーンは抵抗し、怪我をしたという噂が広まった。イシェはラーンの様子を見舞いに行った。
「大丈夫か?」
イシェの問いかけに、ラーンは苦笑いした。
「ああ、俺にはもう何もない」
彼はぼんやりと空を眺めていた。彼の目は以前のような輝きを失っていた。イシェはラーンの言葉の意味を理解した。テルヘルは彼を捨てたのだ。そして、ラーンの夢も希望も全て奪ってしまった。
イシェは静かに立ち去った。彼女はラーンの未来を案じながらも、自分の運命にも不安を感じていた。ビレーの街は、まるで巨大な破綻の淵に立っているようだった。