ラーンの大斧が石壁を叩き込んだ。埃が舞う中、イシェは眉間に皺を寄せて周囲を確認した。「ここじゃない。また違う場所を探さないと。」「おいおい、イシェ。そんなに急ぐなよ。この遺跡もなかなか骨のある fella だぞ」ラーンはニヤリと笑った。だが、イシェの表情は硬かった。「時間がない。テルヘルが約束した報酬を考えると、もっと効率的にやらないと」テルヘルは遺跡探索で得た遺物をヴォルダンに売ることで資金を得て、復讐の準備を進めていた。その報酬の一部をラーンとイシェに分けてくれるという契約だった。
「効率的か…。」ラーンの背筋がぞっとした。イシェの言葉にはいつもより鋭い緊張感が込められていた。「何かあったのか？」ラーンの問いかけに、イシェは小さく頷いた。「ヴォルダンからの情報が入ったんだ。最近、周辺で遺跡探索が活発化しているらしい。どうやらヴォルダンも何かを狙っているようだ」
「ヴォルダンか…」ラーンの顔色が変わった。テルヘルはヴォルダンを憎んでいる。それは彼ら三人にとって共通の敵だった。だが、その敵が今、彼らの目の前に迫っているという現実を受け入れるのは容易ではなかった。「もし、ヴォルダンが先に遺跡の宝を獲得したら…？」イシェの言葉は途絶えた。
その時、突然、地響きがした。まるで巨大な何かが地面を這うように動く音だった。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。「これは…」ラーンの声は震えていた。
崩れた壁の隙間から、黒く濁った水が溢れ出してきた。その水はまるで生きているかのように脈打ち、周囲の石を腐食させながらゆっくりと広がっていく。「破水…」イシェの声がかすれていた。伝説の遺跡に眠るという、あらゆるものを溶かし尽くす力を持つ「破水」。それはヴォルダンが狙うものなのかもしれない。
ラーンは剣を握りしめ、イシェの方を見た。「行くぞ！」二人は互いに言葉を交わさずに、崩れゆく遺跡から逃げ出した。後ろには、破水の黒い波がゆっくりと迫ってきた。