「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。内部構造図を入手したぞ」
テルヘルがそう言うと、ラーンは興奮気味に拳を握り締めた。イシェは地図を広げ、複雑な通路を指さしながら確認する。
「あの塔は危険だと言われているぞ。遺跡探索者たちが何人も命を落とした場所だ」
イシェの言葉にラーンは少しだけ顔色を変えたが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。
「大丈夫だ、俺がいるだろ?どんな罠も突破できる!」
彼の豪快な言葉に、テルヘルは冷めた目で見ている。
塔への入り口は崩れ落ち、深い影が差し込んでいる。一歩足を踏み入れると、湿った空気が肌を刺すように冷たく、朽ち果てた石畳の上で足音が不気味に響く。
「ここからは慎重に進もう」
イシェの言葉に従い、3人はゆっくりと塔へと進んでいく。壁には奇妙な模様が刻まれており、何かの警告のように見える。時折、崩れ落ちる石や不気味な音に驚かされるが、ラーンは恐れ知らずに先頭を歩く。
深い地下へと続く階段を降りると、そこは広大な部屋だった。天井から巨大な柱が伸び、壁には謎の文字がびっしりと刻まれている。中央には、まるで祭壇のように石で造られた円形の構造物がある。
「これは…」
イシェは息をのんだ。この遺跡は、かつて強力な文明が存在した痕跡なのかもしれない。
その時、ラーンの足元から赤い光が湧き上がる。床の石板が割れ、巨大な穴が開いた。そこから漆黒の影が伸び、部屋を満たしていく。
「何だこれは!」
ラーンが剣を抜こうとするも、影は彼を飲み込み、激しい痛みと共に苦しみの叫び声をあげた。イシェも振り返る間もなく、影に襲われ消えていった。
テルヘルだけが立ち尽くしている。彼女の瞳には恐怖ではなく、冷酷な意思が宿っている。
「ようやく始まったか…」
彼女は影に向かってゆっくりと歩み寄り、手には光る剣を握り締めている。
その影は、かつての文明の破壊をもたらした力。そして、テルヘルはこの力を利用し、ヴォルダンへの復讐を果たすつもりだった。