ラーンの豪快な笑い声がビレーの街角に響き渡った。イシェは眉をひそめながら、彼の背中に手を当てて制止した。「少し静かにしてよ。あの砂嵐で視界が悪くなってるんだから」。
「はは、そうだな。でも今日はいい予感がするんだ！」ラーンは目を輝かせ、巨大な剣を肩に担いだ。イシェの視線は、ラーンの背後にあるテルヘルの冷たい表情へと移った。彼女はいつも通りの黒い装束を身にまとい、鋭い視線で周囲を見回していた。
「準備はいいか？」テルヘルが低い声で尋ねた。「遺跡に入る前に確認する必要がある」。イシェは頷き、小さな地図を広げた。砂嵐の影響で、本来は鮮明な地形図もぼやけ、見づらくなっていた。
「今日はあの崩れかけた塔跡を目指すんだろ？」ラーンが地図を指差した。「あの辺りはまだ誰も探検してないって聞いたぞ」。イシェは彼の熱意に少しだけ心を動かされた。
だが、テルヘルは冷静な表情で言った。「危険だ。あの遺跡はヴォルダン軍に占拠されていたという記録が残っている。罠や残存兵の可能性もある」。ラーンの顔色が曇ったが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。「大丈夫だ、イシェが僕を守ってくれるだろ？」
イシェはため息をつきながら頷いた。「わかった。でも油断するなよ」。三人は砂嵐の中へと足を踏み入れた。視界は悪く、足元も不安定だった。
遺跡の入り口に近づくにつれて、不気味な静けさが広がった。まるで砂嵐すらもこの場所を避けるかのように感じられた。イシェは背筋を寒気がするような予感がした。
「何かいる…！」ラーンの声が響き渡り、イシェは驚いて振り返った。ラーンが剣を抜いている。視界が悪い中、何か巨大な影が彼らを襲いかかろうとしていた。砂嵐の中で、その姿はぼやけて見えたが、イシェには明らかに敵意を感じることができた。
「逃げろ！」テルヘルが叫んだ。三人は本能的に後ずさる。影が近づき、激しい風を巻き起こした。砂嵐と混ざり合って、それが何なのか、何が起きているのか、何も見えなかった。