ビレーの夕暮れはいつもより早く訪れた。砂塵が舞い上がり、空を赤く染め上げていく。ラーンはイシェの眉間に刻まれた皺を見て、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「まさか、こんなとこで Spending ってなるとはなぁ」
ラーンの言葉に、イシェは小さく溜息をついた。「地図にも載ってない遺跡だなんて、テルヘルも油断してたみたいよ。一体どこから情報を入手したんだろう…」
砂塵が口の中に入ってくるのを防ぐため、イシェは薄汚れた布を口元まで上げていた。ラーンのように、荒々しい性格ではなく、細やかな配慮をするタイプだった。だからこそ、今回の遺跡探索の失敗にイシェは深く落胆していた。
テルヘルからの依頼は高額の日当と、発見した遺物の独占という魅力的な条件だった。だが、地図には載っていない遺跡の存在情報は不確かなものだった。結果として、彼らは砂塵にまみれたこの吹き溜まりのような場所に辿り着いただけだった。
「おい、イシェ。あっちの壁面、何か見えるか?」ラーンの声が、砂塵を巻き上げる風に乗ってイシェに届いた。イシェは視線をラーンが指さす方向に向けた。薄暗い壁面に、かすかに光る模様が見えた。
「何だ? これって…」イシェは近づき、目を凝らした。「これは…古代文字?」
イシェの言葉に、ラーンの顔色が変わった。「古代文字か…もしかして、あの伝説の…」
二人は言葉を交わさずに、興奮と期待を胸に抱きながら、壁面へと近付いていった。砂塵が舞い上がり、彼らの後ろ姿をぼやけさせる。彼らは、この遺跡の奥深くに眠る秘密に近づいていることをまだ知らない。