ラーンが石ころを蹴飛ばすと、イシェは眉間に皺を寄せた。「また遺跡探しの話か?」
「ああ、そうだな。お前も分かってるだろう?いつか大穴を掘り当ててやるんだ!」ラーンの目は輝いていたが、イシェにはどこか虚しさが漂っていた。
ビレーの街はずれにある小さな宿屋で、三人は顔を合わせた。テーブルの上には、テルヘルが持ち込んだ古い地図が広げられていた。「今回はここだ。ヴォルダンとの国境に近い遺跡だ。」テルヘルの声は冷たかった。「危険な場所だが、その分大きな報酬が約束されている。」
ラーンは目を輝かせたが、イシェは地図を睨みつけ、「ヴォルダンとの国境か...」と呟いた。彼の心には不安が渦巻いていた。ビレーという小さな町での生活は、決して豊かでなかった。しかし、この街で育まれた絆、そして彼らの「大穴」という夢は、彼にとってかけがえのないものだった。
テルヘルは地図を片付け、「準備はいいか?出発だ。」と立ち上がった。ラーンは笑顔で頷き、イシェも渋々ながら立ち上がった。三人は宿を出て、夕暮れの街並みを背に、遺跡へと向かった。
遺跡の入り口は、崩れ落ちた石柱と朽ち果てた門が立ち並ぶ、寂れた場所だった。薄暗がりの中、ラーンは剣を抜くと、「よし、行くぞ!」と叫んだ。イシェは小さくため息をつきながら、彼に続いた。テルヘルは静かに後ろを歩いている。
彼らは遺跡内部へと足を踏み入れた。狭い通路を進んでいくうちに、壁には奇妙な模様が刻まれており、天井からは鍾乳石が垂れ下がっていた。空気が重く、不気味な静けさだけが支配していた。
突然、床が崩れ、ラーンが転落した。「ラーン!」イシェは驚いて駆け寄った。ラーンの体は、深い穴の底で動かない。
「大丈夫か?」イシェの声が響き渡るも、返事はなかった。テルヘルは冷静に状況を判断し、「あの穴には何かいるかもしれない。注意しろ。」と警告した。
イシェは恐怖を感じながらも、ラーンを助けようと穴に近づいた。その時、穴の中から、不気味な光が放たれた。イシェは目を背け、慌てて後ずさりした。
「何だ?」テルヘルの声が震えていた。
穴から這い出すように現れたのは、巨大な蜘蛛だった。その目は赤く燃え盛っており、鋭い牙がむき出しになっていた。イシェの心臓は激しく鼓動し、背筋に冷たいものが走った。「矮小」な存在である彼らには、この戦いは勝ち目がないと感じた。