ビレーの酒場にはいつもより活気がなかった。ラーンがイシェに声をかけるとき、彼女の表情は曇っていた。「またあの話かい?」イシェは小さくため息をついた。「ああ、執政官選挙のことか」ラーンの顔も少し引きつった。「テルヘルは何と言ってた?」「いつものように『状況は好転する兆候がない』って」イシェはテーブルに置かれた空の酒瓶を指さした。「この街の行く末は誰にも分からん。遺跡探しの仕事も、いつまで続くかわからん」ラーンの胸が締め付けられるような気がした。「でも、お前はまだ諦めてないよな?」イシェはラーンの目をじっと見つめた。「あの日、お前が遺跡で見つけた石版の謎を解き明かすまでは」イシェは少しだけ口調が強くなった。「あの石版には何かあるはずだ。それが我々の未来を変える鍵になるって信じてる」ラーンの視線は遠くを見つめた。「そうだな。俺もそう信じる」彼は拳を握りしめた。「いつか、この街に希望をもたらす日が来るさ」イシェの瞳にわずかな光が宿った。
次の日、三人はいつものように遺跡に向かった。ラーンは石版の解読に奮闘するテルヘルの姿を見て、何かを感じ取った。「お前は何かを知ってるんじゃないのか?」ラーンの問いかけにテルヘルは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。「私はただ、この遺跡が秘める真実を明らかにしたいだけだ」彼女は答えた。だが、彼女の瞳の奥には、ラーンが見過ごせない何かがあった。それは、まるで知的な光のように輝いていた。