「おいイシェ、あれってどうだ?」ラーンの太い指が、埃まみれの石版を指差した。イシェは眉間に皺を寄せながら近づき、石版に刻まれた奇妙な記号を眺めた。「これは…見たことない記号だな。古い言語かもしれない」。彼女は小さな革袋から羊皮紙を取り出し、石版の模様を丁寧に書き写した。「何か意味があるような気がしないでもないけど…」
「意味なんか分からなくてもいいんだよ!宝探しのワクワク感はこれで十分だ!」ラーンは豪快に笑ったが、イシェは彼の無邪気さに苦笑するしかなかった。テルヘルは背の高い体を引きずりながら石版の傍らに立ち、鋭い視線を石版に向けた。「この記号…ヴォルダンで見たことがあるような…」彼女は呟き、ラーンの視線を避けながら言った。「この遺跡には何か秘密があるはずだ。あの記号が示す場所を探せば、ヴォルダンに関する手がかりが見つかるかもしれない」。
イシェはテルヘルの言葉を聞きながら、彼女の目的について改めて考え始めた。復讐心で燃えるテルヘルにとって、この遺跡は単なる財宝を求める場所ではないのだろう。しかし、その執念に巻き込まれていく自分たちの運命は…?ラーンが「大穴」を見つける日を夢見ているように、イシェもまた、どこかで自分の進むべき道を探していた。「知恵」が必要な時、それは時に残酷な形をとることもある。イシェはそう思いながら、石版に刻まれた謎の記号をじっと見つめた。