ラーンが岩壁を素早く登り始めたのは、イシェが「待て！」と叫んだ瞬間だった。彼の足は、まるで岩肌に吸い付くように軽快に動き、一瞬のうちに視界から消えていった。イシェはため息をつきながら、テルヘルの方を見た。「いつもこうだ」と呟いた。テルヘルは冷静な表情で頷く。彼女はラーンの行動を予測していたわけではない。だが、彼のような男が遺跡探検に最適であることは理解していた。
「あの洞窟は危険だ。過去に collapses が起こっている」イシェは慎重に石畳の上を進みながら言った。
「大丈夫だ。俺が先導する」ラーンの声が、洞窟の奥から響いてきた。彼の声は自信に満ちていた。だがイシェには、どこか不安な予感がした。
テルヘルはイシェをじっと見つめた。「準備はいいか？」と尋ねた。イシェは小さく頷き、懐から小さな光源を取り出した。その瞬間に、洞窟の奥深くで何かが崩れ始めた。轟音と共に石塵が巻き上がり、ラーンの姿が見えなくなった。
「ラーン！」イシェの声が洞窟に響き渡った。だが返事はなかった。テルヘルは素早く剣を抜き、イシェの手を引いた。「急いで」と彼女は言った。その瞬間、天井から岩が崩れ落ち始めた。イシェはテルヘルの言葉を信じ、彼女の後を追って奥へと進んだ。
狭い通路を抜けると、ラーンが倒れた姿が見えた。彼は意識を失っていた。彼の横には、巨大な宝箱があった。イシェは一瞬ためらったが、すぐにラーンの側に駆け寄った。
「大丈夫か？」彼はラーンを揺さぶった。ラーンの目はゆっくりと開き、イシェの顔を見つめた。
「大穴だ…」彼はかすれた声で言った。「見つけた…」その瞬間、洞窟全体が激しく揺れ始めた。
「逃げろ！」テルヘルの声が響き渡った。イシェはラーンを背負い、テルヘルと共に出口へと走り出した。崩れ落ちる石壁をよけながら、彼らは必死に逃げ続けた。そして、ついに洞窟の入り口にたどり着いた。振り返ると、洞窟は完全に崩壊していた。
イシェは深く息を吸い、ラーンを地面に寝かせた。彼はまだ意識を失っているようだった。イシェは胸が痛んだ。だが、同時に、何かが変わったと感じた。それは、彼自身の中に芽生えた新たな決意だった。