ビレーの朝日は、埃っぽい空気に霞んで、ぼんやりと顔を出した。ラーンは、イシェを起こすために、彼女の肩を軽く叩いた。「起きろよ、イシェ。今日はテルヘルが待ってるんだぞ」。イシェは眠そうに目をこすりながら起き上がった。昨日の遺跡探索の疲れがまだ残っているようだった。
「もういい加減に寝坊するなよ」とラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。「あの遺跡、結局何も見つからなかったでしょう? また無駄な一日だ」
ラーンは陽気に笑った。「そうかもしれない。でも、いつか必ず大穴が見つかるさ! 今日はきっと何かあるぞ!」
テルヘルはいつものように、ビレーの市場の一角にある粗末な宿屋で待っていた。彼女は黒曜石のように輝く瞳で、ラーンとイシェを見下ろした。「準備はいいか?」彼女の口調は冷たかった。ラーンの軽率さに苛立ちを隠せない様子だった。
「準備万端です」とラーンは笑顔で答えた。イシェはテルヘルの鋭い視線を感じながら、小さく頷いた。
今日の遺跡は、ビレーから南東に3日の道のりにある、霧深い山岳地帯にあったという。現地ガイドの話では、かつて古代文明人が住んでいた場所であり、貴重な遺物が眠っている可能性が高いと言われているが、同時に危険な罠も多いらしい。
3人は、テルヘルが用意した馬に乗り、山道を進んだ。太陽が zenith に達する頃、彼らは遺跡の入り口にたどり着いた。そこには、崩れかけた石造りの門と、不気味な静寂が広がっていた。
「ここが?」イシェは不安そうに尋ねた。「本当にここに何かあるのかしら…」
テルヘルは冷静に答えた。「ここは古い伝説で、眠りを司る神殿だと伝えられている。その中心には、永遠の眠りに繋がる石があると言われている」
ラーンの目には、興奮の色が浮かんだ。「永遠の眠りか…面白そうだな!」
イシェは、ラーンの無謀さにため息をついた。彼女は、この遺跡が持つ危険な雰囲気に、どこか居心地の悪さを感じていた。
彼らは遺跡内部へ足を踏み入れた。石造りの通路は、苔むし、湿った空気でいっぱいだった。壁には、奇妙な模様が刻まれており、不気味な光を放っていた。
「ここには何かいる気がする…」イシェは小声で言った。ラーンの表情も、少し曇っていた。「気をつけろ」とラーンは剣を抜き、警戒態勢をとった。
彼らは慎重に進むにつれて、眠気を誘うような重い空気に包まれていくのを感じた。視界がぼやけ、頭が重くなっていく。イシェは自分の目をこすりながら、「何だ…これは?」と呟いた。
ラーンも同様に眠気に襲われていた。「イシェ…何か変だな…」彼はよろめきながら言った。
テルヘルだけが、この状況に冷静に対処していた。「これは…幻術だ!」彼女は鋭い眼光で周囲を見回した。「遺跡の守護者によるものだろう」