「よし、今回はあの崩れかけた塔だな。噂によると、地下に何かが埋まっているらしい」ラーンが目を輝かせながら地図を広げた。イシェは眉間に皺を寄せた。「また無謀な話?あの塔は危険だぞ。地元の民の話では、中に何か邪悪なものが潜んでいるって言うじゃないか」
「そんな話は作り話さ。財宝に目が眩んだ奴が怖がりで逃げ出しただけだろ」ラーンはそう言って地図をイシェの目の前で広げ、塔の場所を指差した。「ほら、ここだ。テルヘルさん、どう思う?」
テルヘルは地図をじっと見つめていた。「興味深い場所だ。特に塔の西側にある崩れた壁。そこが鍵になる可能性が高い」彼女の視線は鋭く、ラーンの顔色を一瞬見据えた後、イシェの方へ向けられた。「イシェさん、あなたの洞察力が必要だ。あの崩れかけた壁には何か秘密があるはずだ。私達はそれを探すのだ」
イシェはテルヘルの言葉に少しだけ心を動かされた。彼女の冷静な判断と、その奥底に見え隠れする強い意志は、いつもラーンの無謀さを補完してくれた。だが、今回は何かが違う気がした。テルヘルが塔の西側にある崩れかけた壁に注目した理由は、単なる洞察力だけでは説明できない何かがあったのだ。「わかった。私が調べてみる」イシェはそう言って、地図をじっくりと見つめた。
三人はビレーを出発し、廃墟となった塔へと向かった。ラーンはいつものように先頭を走り、イシェは彼を少し遅れて追いかける。テルヘルは二人の後方を少し離れた位置で歩いていた。彼女の目は常に周囲を警戒しており、かすかな音にも反応していた。
塔の西側に近づくと、崩れかけた壁が目の前に広がっていた。ラーンは興奮気味に壁を指差した。「ここだ!何かあるぞ!」しかし、イシェは彼の様子を冷静に見つめていた。壁には奇妙な模様が刻まれており、どこか不自然な感じがした。「待て、ラーン。何か変だ」
イシェは壁の模様をよく観察し始めた。その模様は、一見するとランダムに描かれているように見えたが、よく見ると複雑な幾何学的な図形を形成していた。そして、その図形は、どこかで見たことがあるような気がした。「これ…もしかして…」イシェは過去の遺跡探索で見た文献を思い出した。それは古代文明が用いた特殊な記号だった。
「これは警告だ!この塔には何か危険なものが封印されている可能性がある!」イシェの言葉にラーンは一瞬驚愕したが、テルヘルは冷静さを保っていた。「なるほど、そうか…」彼女はイシェの言葉を聞きながら、壁の模様をじっと見つめた。「この記号…私は見覚えがある。ヴォルダンで見たことがあるはずだ。あの遺跡にも同じような記号が刻まれていた」
「ヴォルダン?何があったんだ?」ラーンの言葉にテルヘルは少しだけ顔を曇らせた。「それはまた別の話だ。とにかく、この塔には触れない方が良い。危険すぎる」
イシェはテルヘルの言葉を聞いて、安堵した。彼女は自分の洞察力を信じていたが、同時にラーンの無謀さを危惧していた。今回は、テルヘルのおかげで大きな危機を回避できたのだ。しかし、イシェの心には、まだ何か引っかかるものがあった。なぜヴォルダンとこの塔に共通する記号があるのか?そして、テルヘルは何のためにヴォルダンの遺跡を訪れていたのか?
イシェは、これらの謎を解き明かすために、今後もラーンとテルヘルと共に遺跡探索を続けていくことを決意した。