ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大杯を傾けても、イシェの眉間にしわが寄っていることに気づく。
「どうしたんだ、イシェ?顔色が悪いぞ」
イシェはため息をついた。「あのテルヘル、また怪しい話を持ってきたんだよ。ヴォルダンとの境に近い遺跡だと。危険度が高いって…」
ラーンは豪快に笑った。「危険ならこそ面白いじゃないか!それに、報酬もいいって言うんだろ?」
イシェはラーンの無邪気さに呆れたように言った。「今回は違う。テルヘルが何か隠してる気がするんだ。あの眼神情、どこか…切ないんだよ」
「切ない?」ラーンは首をかしげた。「そんなの気にすんな。俺たちには遺跡探検しかないんだ」
だが、イシェは納得できなかった。テルヘルの目的、そしてその背後にある「盟約」という言葉が頭をよぎる。かつてヴォルダンとの戦いで結ばれた同盟国間の誓い。それは今や過去の遺物となっており、しかしテルヘルにとっては、復讐を遂げるための鍵だったかもしれない。
ビレーの街灯に照らされたテルヘルの影は長く伸びていた。その瞳には、冷酷な光と共に、どこか哀しげな輝きがあった。