ラーンの大汗が額を伝い、まばゆい光を反射した。遺跡の奥深くへと続く通路は狭く、湿った空気が肌に張り付いた。イシェは鼻をつまんで、「またあの臭いがする…」と呟いた。独特の腐敗臭、まるで古びた皮脂が何層にも重なったかのような、不快な匂いだった。
ラーンは気にする様子もなく、興奮気味に宝探しの話ばかりしていた。「ほら、イシェ!今回は絶対に何か見つかるって気がするんだ!あの古代文明の文献には、この遺跡に巨大な宝石が眠っているって書いてあっただろ?」
イシェはため息をつきながら、彼の手を掴んで引っ張った。「そんなのただの都市伝説だよ。それに、この臭いがもう耐えられない…」
だがラーンの興奮を抑えることはできなかった。彼はテルヘルの提示した報酬と、大穴を掘り当てるという夢に突き動かされていたのだ。テルヘルは冷静に周囲を警戒しながら、二人が進むのを後押ししていた。彼女の目は鋭く、何かに怯えているようにも見えた。
「ここからは気をつけろ。この遺跡には、ヴォルダンが嫌がるものがあるらしい」とテルヘルは言った。その言葉には重みがあり、ラーンとイシェの背筋がぞっとした。ヴォルダンとの関係を知る者は、誰もが恐れを抱いていた。
彼らはさらに奥へと進んでいく。壁一面に描かれた古代文字や、奇妙な模様が彼らを待ち受けていた。イシェは慎重に石を触りながら、古代の呪文を解読しようと試みた。
すると、突然、床から黒い煙が噴き出した。ラーンは思わず後ずさった。「何だこれは!」
煙の中から、何者かが姿を現した。その姿は、まるで生きた皮脂のような黒曜石の塊だった。それはゆっくりと動きながら、彼らに近づいてきた。ラーンの剣が震え始めた。イシェは恐怖で言葉を失い、テルヘルだけが冷静さを保っていた。
「これはヴォルダンが送り込んだものだ…」彼女は言った。「逃げろ!」
三人は慌てて逃げる。後ろから追いかけてくる黒い塊の音だけが、彼らの耳をつんざくように響いていた。