ビレーの街は、太陽が沈まない白夜の季節には、まるで永遠の昼下がりのように活気があった。ラーンとイシェは、そんな賑やかな街を背に、遺跡へと続く山道を登っていた。テルヘルはいつもより険しい表情で、地図を広げながら進路を確認していた。「今回はここだ。この遺跡はヴォルダンが以前調査したものらしい。何か手がかりになるものがあるかもしれない」
ラーンの足取りは軽かった。「よし!ついに大穴が見つかるかもな!」と、彼はいつものように豪語した。イシェは小さくため息をついた。「またそんなことを…」と呟きながらも、テルヘルの指示に従い、遺跡へと続く洞窟の入り口に足を踏み入れた。
洞窟内は薄暗く、湿った空気が流れ込んでくる。ラーンが火種を擦り合わせて小さな炎を起こすと、壁には奇妙な文字が刻まれていることがわかった。「これって…ヴォルダンの文字?」イシェは眉間に皺を寄せながら言った。「この遺跡はヴォルダンが調査したらしい…ということは、何か危険な罠があるかもしれない」
テルヘルは冷静に言った。「慎重に進もう。この遺跡はヴォルダンにとって重要だった。何か特別な理由があるはずだ」彼女は懐から小さな水晶の瓶を取り出した。「これはヴォルダンの魔術を解き放つための道具だ。もし、何か危険な罠があれば、これで対処できるかもしれない」
彼らは慎重に洞窟の中を進んでいった。白夜の光が洞窟の奥深くまで届かず、闇は彼らを包み込んでいく。すると、突然、床から冷たい風が吹き上がり、ラーンの足元から砂が崩れ落ちた。
「うわっ!」ラーンはバランスを崩しそうになったが、イシェに助けられ、なんとか立ち止まった。「こ、これは…」イシェは顔面蒼白になって言った。「ここに罠があったのか…」
テルヘルは水晶の瓶を握りしめ、静かに言った。「気をつけろ。ヴォルダンの魔術は強力だ。油断するな」彼らの前に広がるのは、まだ見ぬ危険と、白夜の闇の中に隠された真実だった。