「よし、今日はあの洞窟だ。噂によると、奥に何かあるらしいぞ」ラーンの声がビレーの朝の薄暗い空気を切り裂いた。イシェはいつものように眉間に皺を寄せながら、「またそんな話を聞いたところで…」と呟く。
「今回は違う！本当だ！この地図を見ろよ！」ラーンは興奮気味に、ぼろぼろの羊皮紙を広げた。イシェは地図を見た瞬間、ため息をついた。「またか…。」地図には荒れた線で描かれた洞窟の内部図が記されている。そこには「大穴」を示すらしい印もついている。
「ほら、見てみろ！ここにあるぞ！きっと古代文明の遺物だ！」ラーンの目は輝いていた。イシェは彼の熱意に少しだけ心を動かされたような気がした。「わかった、わかった。今回は行くよ。」
テルヘルは冷静に状況を分析していた。「洞窟の入り口付近には罠が仕掛けられている可能性がある。慎重に進もう。」彼女は鋭い視線で周囲を見回し、常に警戒を怠らない。ラーンの行動は衝動的で危険だが、彼の持つ力とイシェの冷静さは、このチームにとって必要不可欠だった。
洞窟の中は暗くじめじめしていた。足元には滑りやすい苔が生えており、壁には何やら不気味な影が揺らめいているようだった。ラーンは剣を構えながら進み、イシェは後方から弓矢を構え、テルヘルは常に周囲に気を配りながら進む。
「ここからは慎重に進もう…」イシェの声が響いたその時、洞窟の奥から不気味な音が聞こえてきた。それはまるで獣の唸り声のようだった。ラーンは顔色が変わった。「なんだあの音…！？」イシェは緊張した表情で弓を構え直した。
「罠だ！」テルヘルが叫んだ瞬間、地面から突起物が現れ、ラーンを襲った。ラーンの体は鋭い石柱に刺さるように固定された。彼は苦しみながら、剣を落としそうになった。「ぐっ…！」
イシェは素早く弓矢を放ち、突起物を破壊した。「ラーン！大丈夫か！？ 」イシェの声が洞窟に響き渡った。ラーンは苦痛に顔を歪めながらも、「大丈夫だ…！」と何とか声を絞り出した。テルヘルは冷静に状況を判断し、近くの壁に書かれた記号を見つけた。「これは警告だ。この洞窟には守護者がいる」
イシェが「守護者…？そんな…」と呟くその瞬間、洞窟の奥から巨大な影がゆっくりと現れた。それは古代の魔物のような姿で、その目は赤く燃えていた。ラーンは恐怖に震えながら、「こ…これは…！」と呟いた。
テルヘルは冷静に剣を抜き、イシェに「準備は良いか？」と尋ねた。イシェは頷き、弓矢を構えた。彼らは巨大な影に向かって立ち向かう覚悟を決めた。しかし、その影は彼らを嘲笑うようにゆっくりと近づいてきた。
その瞬間、洞窟の奥から白く輝く光が放たれた。それはまるで希望の光のようだった。そして、その光と共に、巨大な影は消滅した。洞窟の中に静寂が戻り、ラーンたちは息を呑んだ。
「何だったのか…？」イシェは震える声で呟いた。テルヘルは冷静に周囲を見回し、「何かが起こったようだ…。」とだけ言った。
ラーンは立ち上がり、少し白々しい笑みを浮かべた。「よかった…今回は無事だったな…」彼の言葉にはどこか虚しさが感じられた。
「大穴」は見つからなかった。しかし、彼らは生きて帰ることができた。それは彼らにとって、小さな奇跡だったのかもしれない。