「おいラーン、また迷子か?」イシェの鋭い声が洞窟内にこだました。ラーンの背中には、いつも通りの無邪気な笑顔が広がっていた。
「いや、違うんだって!ほら、あの奇妙な模様、見たことあるぞ?」
彼は壁に刻まれた複雑な幾何学的な図形を指さした。イシェは眉間に皺を寄せ、図形の配置を分析する。彼女はいつもラーンの行動に付き合わされるが、彼の無謀さと楽観性には辟易することが多かった。しかし、彼には不思議な魅力があり、イシェはいつしか彼と共に遺跡探検をすることに快感を感じるようになっていた。
「確かに奇妙な模様だな。だが、これは単なる装飾かもしれない。ラーン、あまり期待しすぎない方が良い」
イシェの冷静な言葉に、ラーンの笑顔は少し薄れた。「そうか…そうだね。でも、もしかしたら何かあるかもよ?ほら、この洞窟には何か秘密がある気がするんだ!」
彼は興奮気味に壁を叩き始めた。その瞬間、壁の一部が崩れ落ち、奥へと続く通路が現れた。イシェは思わず息を呑んだ。ラーンの直感には時折驚かされることがあった。
「ほら、見て!やっぱり何かあるだろ?」ラーンは得意げに言った。イシェも彼の興奮に少しだけ感染した。二人は互いに頷き合い、新たな通路へと進んでいった。
通路は狭く、天井から滴り落ちる水音が不気味な響きを奏でる。壁には、まるで何かの生き物が這い回ったかのような傷跡が残されていた。イシェは背筋がぞっとした。この遺跡には何か恐ろしいものを感じたのだ。
「ラーン…ここは少し…」
イシェの言葉を遮るように、通路の先に赤い光がちらついていた。二人は息を呑んでその光の方へと進んだ。すると、そこは広大な空間で、中央に巨大な祭壇があった。祭壇には、まるで宝石のように輝く石が埋め込まれており、その中心には、謎の金属製の箱が置かれていた。
ラーンは興奮気味に箱に手を伸ばそうとした。しかし、イシェは彼の腕をつかんだ。「待て!何か危険があるかもしれない!」
その時、祭壇の周囲から黒い影が動き出した。それは人型の怪物で、全身を鋭い棘で覆われていた。その目は赤く燃え盛る炎のように輝き、口からは悪臭を漂わせる煙のようなものが溢れ出ている。
ラーンの顔色が変わった。「これは…」
イシェはすぐに剣を抜いた。「ラーン、逃げろ!」
二人は怪物に襲いかかったが、その力は想像を絶するもので、簡単に吹き飛ばされてしまった。ラーンの背中に深く切り傷が入り、血が噴き出した。彼は苦悶の表情で地面に倒れ込んだ。
イシェはラーンを助け起こそうとしたが、怪物は容赦なく彼らに襲いかかってきた。その時、突然、空から一筋の光が降り注いだ。光は怪物に直撃し、それを消滅させた。光が消えると、そこにはテルヘルが立っていた。
「遅かったようだ」彼女は冷めた声で言った。ラーンとイシェを助けるために、彼女は自ら危険な遺跡に足を踏み入れたのだ。彼女の背中には、まるで過去の戦いの証であるかのように、幾つもの傷跡が残されていた。
ラーンの目を覚まさせると、テルヘルは彼らに告げた。「この遺跡には恐ろしい秘密がある。そして、それを守るために多くの犠牲が求められるだろう…」