「よし、今回はあの崩れた塔の奥へ行くぞ！」ラーンの声がビレーの薄暗い酒場を満たした。イシェは眉をひそめた。「またそんな危険な場所？あの塔には何年も誰も入っていないって聞いたよ。何かあったら責任取れるのか？」
ラーンは豪快に笑った。「大丈夫だって！俺が行くんだぞ、イシェ。お前はいつも心配性すぎるんだよ。」彼は立ち上がり、剣を肩に掛けて酒場から飛び出した。イシェはため息をつきながら、テルヘルの方を見る。テルヘルは静かに酒を傾けていた。「彼の言う通り、あの塔には何かがあるかもしれないわ」と彼女は言った。「ヴォルダンが何年も前に調査していた遺跡だと聞いたことがある。何か危険な物を持っている可能性もある。もし手に入れば、我々の目標に大きく近づけるかもしれない。」
イシェは渋い顔をした。「でも、ラーンが言うように、本当に危険な場所だぞ。あの塔には何か邪悪な力が宿っていると噂されているんだ。」テルヘルは涼しい目で言った。「危険を恐れる必要はないわ。必要なのは勇気と準備だけよ。それに、私達が手に入れれば、あの力を利用してヴォルダンに復讐を果たせるかもしれない。」彼女の目は燃えるように輝いていた。
イシェはテルヘルの言葉に心を揺さぶられた。ラーンの無謀さにいつも呆れていたが、彼の純粋な熱意と、テルヘルが秘めた復讐心に、彼は次第に引き込まれていくのを感じた。そして、どこかで、彼自身もこの冒険から逃れることができない、という予感がした。
翌朝、三人はビレーを出発した。ラーンの背中には大剣が重く乗っている。イシェは細身の体に似合わず重い装備を運び、テルヘルは冷静な表情で周囲を見渡していた。彼らの足取りは決然としたものだった。しかし、彼らを待ち受ける運命の行く末は、まだ誰にも分からなかった。
塔に近づくにつれて、空気が重く冷たくなっていくのが感じられた。崩れた石畳の上を進むと、どこからともなく不気味な音が聞こえてくるようになり、イシェは背筋を寒く感じるほどの痺れを感じた。ラーンはそんな気配を全く感じずに、塔の入り口に近づいていった。
「よし、行くぞ！」ラーンの声が響き渡った瞬間、塔の奥深くから、何かのざわめきが聞こえてきた。それはまるで、何千年もの間眠りについていた何かが目覚めるような、不気味な音だった。