ラーンの重い呼吸がビレーの薄暗い路地裏にこだました。イシェは眉間に皺を寄せながら彼を見下ろした。「またやりすぎだ、ラーン。あの遺跡は危険だって言っただろう。」
ラーンは痛みに顔をしかめた。右腕に深く突き刺さった石片が、動きを阻んでいた。だが彼は、イシェの言葉を無視するように、不敵な笑みを浮かべた。「大穴が見つかるのはいつも俺だぞ。今回はきっと…」彼の言葉は途絶えた。視線の先でテルヘルが冷たく彼を見下ろしていた。
「いい加減にしろ、ラーン。」テルヘルの声は氷のように冷たい。「あの遺跡の調査は失敗だ。お前たちの無茶な行動によって、貴重な情報を失ってしまった。ヴォルダンに近づきつつあるはずなのに…」彼女は言葉を絞り出した。「もう時間がない。」
イシェはテルヘルの言葉に背筋が凍る思いをした。彼女が抱く復讐心と、そのためにどれほどの痛みを耐えてきたのかを知るからだった。ラーンの無茶な行動は、テルヘルにとって大きな痛手だったのだ。
ラーンはテルヘルの鋭い視線を感じながらも、不屈の表情で立ち上がった。「諦めるわけにはいかないよ、イシェ。俺はまだ信じてるんだ。」彼は痛みをこらえながら、傷ついた腕を振った。「いつか必ず大穴を見つける。お前たちを連れて、自由になれる場所へ…」
イシェはラーンの言葉を聞いた時、彼の瞳に宿る強い意志を感じた。そして同時に、彼が抱える深い闇にも気づくのだった。それは、痛みを乗り越えようとする強い意志の裏側で渦巻く、深く暗い何かだった。